鳩+ミミズ=デラックスバーガー?

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 青い顔をした春斗がトイレから帰ってきたのは、ニコラスが去ってしばらくしてからだった。 「ね、ねえ。ニコラスさんが言ってたのって本当だと思う?」 「嘘に決まってるだろ。いつもの冗談だろう。じゃないと、うっぷ」 自分がミミズを食べた事を絶対に信じたくないであろう春斗が勢いこんで紡の言葉を否定するが、途中でまた吐き気に襲われたのか口を押さえる。   「絶対にここで吐くなよ、春斗」 「わがってるよ、凪」  凪が言うと春斗はまた口を抑えた。  しかし、昼を食べてから三時間。  まだギリギリ消化されていない時間だ。  本当にミミズだったらの話だが。  「で、でも、じゃあ何でデラックスバーガーはあんなに安いの?ぼ、僕スーパーで牛のお肉が売ってるの見た事あるけど、こんな大きさで1000円以上もするんだよ。そ、それなのにデラックスバーガーは150円で買えるだなんて、お、おかしいよ」  紡の言う肉はブランド牛だ。  小学校の食堂でブランド牛が出るとは考えづらいが、そんな事は四人に分かる筈はない。  四人は考え込んでしまう。 「ミミズはコストが高い。だから絶対に違う」  眼鏡のブリッジを上げながら珍しく虎太郎が長文を話す。  その言葉に三人はホッとする。  四人の中で一番頭が良く、一番本を読んでいる虎太郎が言う事に間違いはないと三人は信じている。  ニコラスが腹いせに言った冗談だと分かったからだ。  しかし、虎太郎の言葉は続く。 「だからと言って食堂のデラックスバーガーが何故安いのかは不明だ。別の肉を使っているのかもしれない」 「べ、別の肉って、な、何のお肉?」  虎太郎は首を振る。 「情報不足」 「あ」 「何だ春斗」  思い出したかのように青い顔をした春斗が言う。 「俺さ、前に親に聞いたんだけど、前まで公園に鳩が沢山居たのに随分減ったってさ。もしかして鳩の肉なんじゃね?」  春斗の突飛な発言に三人は呆れるが、ミミズよりは鳩の方が随分とマシなので意外にも受け入れてしまった。 「は、鳩って食べれるの?か、可哀想じゃない?」 「可」 「俺もテレビでどこかの部族が食べてるの見た事ある」 「よし、実際に捕まえて食べてみれば分かるだろう」  春斗の言葉に三人は顔を見合わせて頷いた。  日本では馴染みはあまりないが、世界では結構食べられているので凪と虎太郎の言葉は正しい。  確かに正しいが公園の鳩は食べるものではない。  そんな事を知らない四人は鳩を捕まえる為に、コンビニでお金を出し合いポップコーンを買い、公園に戻りつまみ食いをしながら鳩を誘き寄せた。  どこに隠れていたのか、鳩はすぐにバラバラとおりてきたが、春斗の言う通りに思ったよりも数は少なかった。  運動オンチな虎太郎を無視して、早速三人はやってきた鳩を捕まえようとした。  虎太郎は何やらゴソゴソと一人作業をしている。  そうして一時間ぐらい鳩を追いかけまわしたが、鳩の数自体が少ない上に足が早く捕まえる事が出来なかった。  いくら虎太郎が鍛えていて足が早いといっても、まあ小学生の脚力だ。  鳩だって間抜けではない。  血走った目で小学生が必死に追いかけ回したら、逃げるに決まっている。  必死になって追いかけ回すが、鳩はスルリとすり抜け上手く捕まえる事は出来ない。 「ま、待って。僕、もう無理」  一番最初に体力の無い紡が脱落した。  凪も一向に捕まえられない鳩に苛ついたのと、虎太郎が何をしているのか気になったので、一緒に休憩する事にした。  春斗だけがいつまでも鳩を追いかけ回している。 「虎太郎は何やってるんだ?」 「罠」  虎太郎が作り上げたのは砂場に置いてあった誰かのバケツを立てかけ、木の枝と縄跳びのロープで作った簡易の罠だった。  バケツの下にポップコーンを置き、三人は離れてしばらく待ってみる。  すると興味をもったのか、鳩が一羽近づいてくる。  こんなに簡単に捕まえられるのなら、走り回らなくても良かったのに。  もう少しで鳩が中に入ると思った所でバタバタと音がした後に、ズザーッと言う何かを引きずったような大きな音がした。  その音に気に取られている隙に驚いた鳩はちゃっかりポップコーンの欠片を加えたまま三人と目が合った。  慌てて虎太郎が紐を引っ張るが少し遅く、鳩は慌てて飛び去ってしまった。  三人はガッカリした。  大きな音を立てたのはもちろん春斗だった。 「何やってんだよ、春斗」 「バカ」  三人が振り向くと、なんと春斗が素手で鳩を捕まえていた。 「さすが野生だな」  凪と虎太郎はドン引きしている。  凪は自分も追いかけ回していた事を棚に上げているが、そこはもう忘れている。 「す、凄い。さ、さすが春斗」  ただ一人、紡だけが春斗をキラキラとした目で見ている。 「家、無理」  虎太郎の言葉に二人はハッとした。  さすがに公園に料理をする道具はない。  という事は誰かの家に鳩を連れていかなければいけない。  春斗が捕まえている、逃げようと暴れまくっている鳩を。  そしてその後食べられるように解体しなければならない。  普通の小学生である四人はもちろん、動物の解体などやった事もないし、鳩を連れてきたなんて親が知ったらどれだけ怒られるのかを想像してしまった。  お互いに目で押し付けあう。  三人が静かに攻防をしている間にも春斗はずっと鳩と格闘している。  鳩だって黙って捕まる訳がない。  力の限り抗っている。  「おい、少しは大人しくしろ」  人間の言葉なんて聞く筈もなく、鳩はバサバサと手の中で暴れ、翼も嘴もメチャクチャに動かした。  そして、スルリと春斗の手から抜け出し、空へと飛んでいった。 「くそっ、あともう少しだったのに」  残念ながら、悔しがっているのは春斗だけだった。  三人は少しホッとしていた。
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