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「……へ?」
思わず画面を見て、俺は声を出した。
映し出されていたのは家ではなく、家があった痕跡だった。
真っ黒な煤だらけの更地。そこかしこに残る、むき出しの黒い柱。物々しく周囲に張られたテープ。火事で全焼したのだ、とすぐにわかった。
ぞくりとした。
なんだこれ。火事に遭って引っ越したが、住民票を移していないのか?
一か月前から、胃が痛くて……。
一か月前? いや待てよ、地区と時期に覚えがあるぞ。
ニュースサイトを検索すると……あった。
「十一月二十二日の未明、A町の住宅から出火しました。住宅は全焼し、焼け跡から三人の遺体が見つかっています。警察によりますと、当時住宅は鍵山隆司さん、妻の由美さん、息子、亮太くんの三人暮らしで、火事のあと、連絡が取れなくなっているということです。
警察は遺体は鍵山さん一家とみて確認を急ぐとともに、出火の原因を調べています……」
文面は最後まで目に入らなかった。
鍵山隆司。
あいつだ。
なんであいつが、鍵山隆司の保険証を持っているんだ? じゃあ、発見された遺体は、一体誰のものなんだ? あいつは……何者だ?
夕方の病院は静まり返っている。窓の外はいつのまにか真っ暗だった。
ああ、せめてあいつの顔が思い出せれば……だめだ、なんて印象に残らない顔なんだ。
背中は冷や汗でいつの間にかぐっしょりと濡れていた。嫌な予感が黒雲のように増大していく。知ってはいけないことを知ってしまったような気がする。
コンコン。
その時、外来のドアがノックされた。
誰だろう。痺れたような頭で、俺はドアに向かう。
ドアを開けた瞬間、ポマードの匂いがした。
了
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