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106号室:空を切るドアノブ
クシは、和氣団地の中でも特に優秀なロボットだ。彼女が作り出す電気量はいつも一番だし、それでいて処理も早いので、仕事が延長することもない。
しかしそんなクシにも、手こずることが一つだけあった。それは、部屋の出入りである。
原因は、クシの部屋のドアノブにあった。根元がぐにゃりと歪んでしまっており、一度動かしただけでは上手く作動しないのだ。クシはいつもこのドアノブに苦戦し、仕事に到着するのも、終了後に帰ってきて部屋に入るのも、結局誰よりも遅かった。
ある日クシは、管理人室にこのことを問い合わせた。
「ドアノブの材料がないので、直せません」
管理人は電話の向こうで冷たく言った。
「ではせめて、壊れている理由を教えてもらえませんか?」
とクシが尋ねると、管理人は口調を変えずに即答した。
「その部屋に住んでいた人間が、そこで自殺しているんです」
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