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ドアノブにタオルをかけ、そこで首を吊って死んだらしい。詳しく聞くと、どうやら仕事と家を往復するだけの生活に嫌気が差したとのことだった。
「それだけで、人間は死を選択するものなのですか?」
「さあ、よく分かりませんが」
管理人の曖昧な返事は、初めてクシのプログラムをもやもやさせた。
クシはその日、充電装置に腰かける前に、玄関の前に座り込んだ。
今の和氣団地での仕事も、ここに住んでいた人間と同じことだ。でもそれを辞めては生きていけないのだから、仕方がない。彼だってそうだったはずだ。
扉を背に、ドアノブの下に頭が来るようにして、だらんと脱力する。
彼は死ぬ直前に、この景色を見ていたのか。それは本当に、彼が求める景色だったのだろうか。
後日、管理人から電話があった。
「先日はすみませんでした。ドアノブの修理ができそうなんですが、どうしますか?」
クシはそれを断った。管理人は少し拍子抜けしたような声になった。
「いいんですか?」
「はい」
「どうして?」
「どうしてでしょうか。ただ、まだこのままにしておきたい気がするのです」
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