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「うーん……流石にその条件で求人先の斡旋は厳しいですね」
ハイローワークの職員が腕組みをして固まってしまった。チト正直に話し過ぎたか。まあ、最初から覚悟していたことではあるが。
「だろうな。こちとら、刑期も終わって出所きたばかりだしよ」
「『過失致死』の前科ですか。偶発とはいえ、殺人という肩書きは重いですからね」
そりゃそうだろう。俺だって人殺し野郎なんて、あえて雇いたいとは思わねえさ。とにかく失業手当てでも貰って一時をしのぎ、後は日銭稼ぎするしかねぇよな。まぁ、落ち着いたらどこかのクラブで用心棒でもするかだ。腕力には自信があるし。
「ちょっと……上に相談してきます」
相談員が席を立つ。
いらねーよ。どうせ「やはり難しいです」と言われるのがオチ……と思っていたら。
「こちらへどうぞ」
と別室に案内された。禿げた頭のおっさんが愛想の悪い顔でソファーに座ってやがる。
「そこへお座りください。実は一件だけ、ご紹介できる会社があります。まっとうな企業さんで、雇用形態も正社員扱いです」
いや、別室に呼ばれるとかどう考えても『曰く付き』感がありありじゃねぇか。
不審そうな俺の様子におっさんが「無論、理由はあります」と声をひそめる。
「そこは帝都港から南に約25キロほど離れた離島で、居住者はそこの社員しかいません。造船業で、主にクルーザーや漁船などの内装を請け負う会社さんなんです。それでその会社さんなのですが」
ほら、来た。絶対に何かブラックな条件が――。
「社長さんの方針で、あなたのような前科や謂れがあってまともな就職が難しい人間のみを受け入れているのです」
「……何だ、そりゃ」
前科者の集団だって? スゲー絵面だろうな。そんなヤツらを束ねていこうなんて大した度胸の社長もいたもんだ。
いや待て。だが案外それはいい案かも知れない。何しろお互いに前科者同士なら気を遣ったり隠したりする必要もねぇし、暴れて他人様に迷惑を掛ける心配もない。何より都会から隔絶されるのなら、他人の目を気にしなくていいという利点もある。
住み込みなら住処や食べるものも心配しなくていいだろう。
「安寧造船という会社なんですが、どうされますか? ご希望があれば連絡しておきます。代表を務められている太平社長の意向で、やる気があるのなら職歴も履歴書も必要ないそうですから」
「つーか、そこ以外に選ぶ余地なんてねーんだろ? ならそこでいいよ。で、どうやってその離島まで行けばいい?」
俺は古びた鞄を持って、ソファーから立ち上がった。
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