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中学生の間、私の恋愛は成就する事はなかったが、それなりに普通らしい生活は出来た、、と思う。
たまに友人や両親に「何でそんな事知ってるの?!【出来るの!?】」と夢の中で得た知識や行動が災いしてびっくりされる事はあったが、その頃の私は夢は夢、リアルはリアル、とわきまえる事が出来ていた。
とりあえずそういう質問があった時は「ネットで、、、」と言ってしまえばおしまいである。
そんな事はさて置いて、私はここの所5日間も連続して同じ人物と夢の中で会っている。
彼女は深雪という22才の女性だった。私が何故5日間も彼女と一緒に過ごしているのかと言えば、私が夢の住人と認識して初めて相手の彼女が私と同じ、夢の中の人だったからだ。
つまり深雪さんも夢の中だけで私と繋がっているという事を知っているのだ。
とても不思議だった。
初めての理解者が出来て嬉しいとさえ感じた。
とはいえ、物理的に本当に会うのは難しかった。何故なら彼女は女子刑務所の中にいるというのだから。
でも初めての共有者。実際に会ってみたいと思うのは自然な事で、せめて本当に実在しているのかも知りたかったから手紙でも、、と思っていたのだが、彼女は今の刑務所の住所は教えられないと言った。
私に迷惑がかかるから、と。
確かに何の縁もない私が深雪さんに手紙を書いた所で現実世界では通用しない間柄だ。
調べようと思えば調べられる。
だって私は夢の中ならどこへだって、壁だって塀だって乗り越えられる。
ちょっと表に出てどこの刑務所かなんて簡単に調べられる。
でも、、しない。
それはきっと深雪さんにも迷惑がかかるから。
折角の共感者がいたというのに、初めて夢がとてつもなく不都合なものだと痛感した。
初めて深雪さんと出会ったのはあまり綺麗とは言えないワンルームの部屋だった。
嗅ぎ慣れないタバコの匂いとアロマの香り。
アジアンテイストなインテリアと乱雑に積み上げられた衣類と床に散乱するゴミ。
そんな夜のワンルームのベッド?の上にぼんやりとした深雪さんが座っていた。
夢の中だと分かっている私は興味本位で声をかけた。危険なら逃げればいい。
それよりも、自分より大人な、成人した女性がどうしてこんな所にそんな顔で呆けているのかが非常に気になった。
中学生の私にとって22才の女性がこんな風なのは有り得なかった。
勝手に人の部屋に入っているというのに私が声をかけても深雪さんは驚く事なく、とろんとした甘い瞳をこちらに投げてきた。
「あぁ、来たの、、座りなよ、、」
少しハスキーな声で深雪さんはどこに座る場所があるのか?と言わん様なスペースを顎で勧めた。
夢の中あるあるなんだけど、私は突然夢に現れても夢の中の住人は昔から知っている間柄の様に私に接してくるものだから、私ももう敢えてその辺の常識とかは外している。
これがリアルなら普通に私は不法侵入である。
「どうしたの?」
私が彼女に投げ掛ける。勿論初めての時は名前なんて分からない。でもそんな事はどうでも良かった。名前なんてなくても困らない世界なのだ。今までもそうだった。
「またやっちゃったよ。」
彼女は顔が火照っている。蛍光灯で何とか分かる。手には注射器を持っている。何となく察する。明らかに病人では無さそうな彼女がとろんとした目で注射器を持っているっていうのは、、きっと、、そういう事なんだ、、。
心配より興味が先に立った。だってどうせ明日には会わない存在。私にとっては明日の彼女なんてどうでもいい。
「どうして、、、」
ドラマでしか見た事がないシーンだった。
でも実際にこの匂い、、そして足元に散乱するゴミが触れる感触、、夢の中だけど相変わらず疲れる、、
「疲れちゃった。」
彼女はため息をついた。
「あいつは逃げたよ。結局そんなもん。」
彼女は眩しそうに蛍光灯を見つめる。
私はかける言葉もなくただ眺めていた。
大人の女性、、
タバコ、、
注射器、、
全てを諦めた若い大人の女性。
私だっていつかこの位の歳になる。
どうして?彼女はこんなに諦めているの?
「ねぇ、抱き締めてもいい?」
彼女はそう言って大きく手を広げハグを望んだ。
何だかそれで彼女が少しでも救われるなら、、とつい思ってしまい、私は大きく開かれた彼女の両腕に抱かれた。
彼女は私をきつく抱き締めた。
そして暫くして彼女は小刻みに震え出した。
泣いているのだ。
私より大人なのに彼女がとても幼く、脆く、小さなものに感じた。
私も抱き締め返した。
初日は殆ど会話をする事なく、「また会いに来て。お願い。」という彼女の言葉を受けて私はそのワンルームを出た所で目が覚めた。
目覚めてもなお鼻につくタバコの臭い。抱き締められた感触、、会わなくてもいい存在で約束だった。
けど、私は次の日も何故か彼女の部屋にいた。日中は夢の事を意識していなくても、私が眠りにつくと気になった人の所には必ず現れてしまう、、かける言葉さえないのに。
私に大人の女性の闇はまだまだ理解する事は出来ない。
とはいえ、危険だから会いたくないの場合とは違い、何だか気になる、、と思うと次の日も同じ場所に現れてしまう、、疲れるパターン。
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