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それから深雪さんの地獄はずっと続いて行ったのだと言う。
体の制御が効かなくなる程彼女は衰弱し、助けをもとめる事も出来なかったのだとか、、、
でも今私の目の前にいる深雪さんは衰弱もしていないし笑顔だ。
どういう事??
「私ね今幸せなの。」
空を見上げて彼女は言った。
本当に幸せそうだった。
私は散々な目に遇って、今現実世界では刑務所にいるというのに幸せなのか、全く分からなかった。
刑務所が幸せ、なんてとても考え付かない。
私がぽかんとしていると悪戯っぽく深雪さんは笑った。
「多分ね、私、そろそろ死ぬの。」
深雪さんは笑っていた。
「でもね、その前に誰か側にいて欲しかった。そう願ってたら貴女が私の元に来てくれた。」
「私は夢の中で沢山の人に助けを求めた。それしか出来なかったから。でも誰も側にはいてかれなかった。貴女だけ。貴女だけが次の日も私の所へ現れてくれた。」
深雪さんは続ける。
「もうその頃は助けて欲しいなんて思っていなかった。ただ、許して抱き締めて欲しかった。」
許す??何を??こんなに酷い事をされている彼女を??
死ぬって何?病気なの?
急な情報ばかりで私は付いていけない。
「私はね、人を4人殺したの。人?違うな。獣かな?」
皮肉っぽく笑うと深雪さんは続けた。
「そ、あいつらよ。私を散々弄んだあいつら。どう殺したのかは教えない。何故なら貴女の負担になってしまうわ。」
殺人???
まさか、、、そんな、、何ともやるせない気持ちと少しの恐怖。
でも目の前にいる深雪さんは幸せそうだ。
深雪さんの話によると、その憎き男達をどんな手段かは教えて貰えなかったけど、殺害し、そのまま男の所持品であった携帯電話から警察に自ら電話したそうだ。
暫く病院にいたが、健康を取り戻して裁判があり、彼女は反抗も控訴もしなかったらしい。早く終わらせたかったと言っていた。
今更嘆いてもと言っていたが、自分が不幸だったとは思いたくなかったらしい。
とはいえ、周囲からは【可哀想で残虐な人】【運の悪い不幸な人】と思われる。きっと両親知人もそう思うだろう、と。
でも深雪さんはそう思われたくないし、自分は幸せだったのだ、と誰かに伝えたかったらしい。
それが私だった様だ。
私はただの好奇心だったけど、ただの4日の出会いだったけど、彼女は泣いて笑って、時に大人で、時に寂しい子犬の様に、、、
でも彼女は言う。
確かに私の最後は酷いものだったかも知れない。
でもそれよりも幸せな時間の方が沢山あって。それに私は結局ちゃんと敵は取った。間違ったやり方だったのかも知れないけど、私の中では最後の1人の命を奪った時、勇者になった様な気がしたわ。
こんな奴ら野放しにしていたら次の私の様な被害者が出るもの。
でもね、常識的には正しいやり方ではなかったから、結局私は可哀想な酷い人、不幸な人で私の人生は終わるのよね。
大切に育てて貰った両親には本当に申し訳ないと思ってるわ。
でもこれしか方法はなかった。
貴女がこの私をどう思うかは分からない。
でもね、、、貴女だけには分かって欲しい。
そして許して抱き締めて欲しい。
私は可哀想なんかじゃないって。
最後深雪さんは笑いながら泣いていた。
私は思わず抱き締めた。
初日もそうだった。
彼女は戦っていた。
抱き締めるしか出来ないけど、彼女はそれを救いだという。
私は思い切り深雪さんを抱き締めた。
ただ無言で。力の限り。
「明日で貴女と会うのは最後にするわ。だから明日もう1日だけ私の前に現れてくれないかしら?ごめんね。お願い。」
懇願する様な瞳で私を見つめる。
しがない中学生にこの大人の弱みは重い。
けど、、、多分私しかいない。
私は静かに頷いた。
彼女はとても笑顔になった。
それでいい、と思った。
真実は分からない。
けど、目の前の女性が困っている。
それだけ、、、、
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