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約束の5日目を迎えた。
頼まれて来たのはいいけれど、ここはどこなんだろう?
どこにでもある団地の様に見える。
見回していると後ろから深雪さんが肩を叩いた。
「良かった。来てくれたんだね。」
そういうとおもむろに私の手を握り歩き始めた。
「最後に貴女に出会えて良かった。可哀想じゃない私を見てくれた貴女。もっと早くに出会いたかったけど、こればかりは仕方がないか。」
団地の階段を登って行く。
どこに行こうとしているんだろう?
屋上まで上がって自殺???
いや、これは無理か、、彼女の実際は刑務所なんだから。
じゃあ何がしたいんだろう?
深雪さんは一つの扉の前で止まった。
「さ、ここ、ここ。」
と言って私の手を握ったまま扉をすり抜けた。
いつもやっている事だけど壁や物をすり抜ける時って結構気持ち悪いんだよね。
現実ではいたたたっ!ってなるもんね。
まぁそんな瞬間はあっという間に終わった先にあったのはそれこそ普通の人の住まう家だった。
小綺麗にしてあって誰もいない。
でも片隅に飾られてある卒業式?成人式?の写真の中には今とあまり変わらない深雪さんがいた。
深雪さんのご実家かな???
慣れた手つきで冷蔵庫を開け、私に麦茶を淹れてくれた。
深雪さんが語る。
「私は近いうちにここへ戻ってくるわ。勿論生きてではないけどね。」
麦茶の水滴を眺めながら彼女は呟く。
「きっと両親は悲しんでいるだろうし、長くはここでは住めないだろあなぁ。」
ため息をつく深雪さん。
「貴女にももう会えない。何故なら今の私は処刑台で命を終わらせているから。」
え?ちょっと待って、展開早すぎじゃない??
あぁ、でも今までの事を思うと必ずしも今回の深雪さんの夢の中はいつもと違って時系列ではない。
だから刑務所に入って彼女が何年経っているかも分からないし、調べる術もない。
現実の世界では深雪さんは実はもう22歳ではないのかも知れない。
今までと全く違うので動揺が隠しきれない。
「ふふっ。困ってるね。でもいいの。気にしないで。今私がここにいるって事は現実ではまだそれなりに意識があるんでしょう。でも時期になくなるわ。後10分もない位にね。」
「今日貴女にどうしても会いたかったのは、こんな私にここまで付き合ってくれた事の感謝と、私には出来なかったけど、夢の中に現れて人を救える力が貴女にはあるんだって事を伝えたくて、、」
いや、、私は、、救ってなんて、、、
戸惑った。こんな風な捉え方をする人がいるとは。
「ごめんね、時間がない。覚えているかな?小さい女の子と遊んだ記憶。その子は小児がんで病室にいて、あれから数日後に亡くなったの。そして施設にいたおばあちゃん、覚えてるかな?彼女はあれから認知症になってね。でも貴女と最後に作った折り紙の星?あれをずっと作り続けているの。」
え、、!?あれ、、待って、、、ちょっと、、、
私が口をパクパクさせる。
何か言おうとする。
けど深雪さんは急いでいる様で、私に話をさせる雰囲気はない。
「うん。びっくりしてるよね?分かるよ。でもごめん。時間がない。私、もうすぐ消える。あの、、!最後に、、最後にお願い!!もしいつか、ここに来る事があったら、もし私の両親に会う事が出来たら、、、私の日記帳を見て、、。そこに、、書いてあるから、、だから、、、!!」
私の両拳を握って切実に訴えかける深雪さん。
「貴女は、、、特別、、、なの、、、だ、か、、ら、、、」
力強く握られていた深雪さんの手の温度が空気に変わっていく。
拳の力が抜けた時、私は目の前に座っている深雪さんを見た。
何か言っている。
でも聞こえない。
深雪さんが消えていく、、
そして私の頭にももやがかかる。
そこで私は次の日の朝を迎えた。
悪夢。とは言わないけれど、ある意味沢山の荷物を急に背負わされて放り出された感じ。
まだ深雪さんの手の温もりが残っている気がした。
とてつもなく疲れた、、、、それしか考えられなかった。
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