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プロローグ
『寝ては駄目。起きていて』
深夜2時。独身者向けワンフロアアパートの一室。僕はシングルベッドの上、まんじりともしないまま、なすすべもなく何の変哲もない天井を眺めている。
――――今夜もまた眠れそうにない。
明日は通常通りに仕事だ。朝七時にはアパートを出て会社に行かなくては。在宅勤務が普通になった今でも、新入社員は出勤が必須とされている。半年間の研修を終え、僕は毎日元気に出社……するのがとても困難になっていた。
僕はまたため息をつき、少し体でも動かそうとベッドから脱皮するようにごそごそと這いだす。それから、思いつくままに腕立て伏せや腹筋をしてみる。敢えて照明は付けず、ベッドにおいたスタンドの灯りだけのなか、黙々と続けた。
けど、却って目が覚めてきてしまった。しかも、汗を掻いたので必然的にシャワーを浴びる。結局、眠気は忍び寄るどころか、手の届かないところまで遠ざかってしまった。
こんな状態が、もうかれこれ半年続いている。夜、ベッドに潜り込み瞼を閉じる。ウトウトとしてくると、誰かが『寝るな』と囁いてくる。そんな妄想に憑りつかれ、僕は寝ることができなくなってしまった。
――――誰か。助けて。
眠りと覚醒のなかで救いを求める。やがて、空が白み始めると、僕はため息をつき重石のような足をベッドの縁に下ろす。今日もまた、眠れぬままに朝を迎えている。
この苦難からなんとか抜け出さなくてはっ。僕は血走った目を開き、拳を握って固く誓った。
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