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第18話 願ってもない
結局、飲み過ぎた叔父は東京に向かうことが出来ず、優実さん共々、実家に泊まることとなってしまった。
「じゃあ、私はどこかホテルに行きますよ」
叔父たちが泊まることになったので、必然的に天宮先生の寝室がなくなってしまった。客室は一つしかないんだ。
「そういうわけには、光の部屋で同室は駄目でしょうか? 布団はありますので」
「いや、母さん、それは……」
ふざけたことを。僕の部屋は子供部屋としては確かに広いけど、天宮先生と同室で寝るとか、先生だって嫌だろう。
「構いませんよ。社員旅行だって同室で寝ますし。な?」
な……て……。
「天宮せ……」
「すみません。亮市さんが、御迷惑を……」
隣で何度も頭を下げる優実さん。拒否どころか渋い顔も出来ないじゃないかっ!
「大丈夫です。社会人なんで」
「そうよ。優実さんが謝らなくていいの。愚弟がごめんなさい」
僕は必死で作り笑いをするしかなかった。
家族や優実さんの前ではニコニコしてたが、2階に向かう階段では足取りが重いー。天宮先生を2階の僕の部屋に迎え入れた。
「本当だ。広いね、この部屋」
2階はこの部屋と隣に両親の寝室しかない。亮市叔父さんが泊まる客室は1階の和室だ。母方の祖父母が元気だった頃は、そこに何日も泊っていった。
父親の実家は近隣だったが、母方の方は、日本海側のH県なのでかなり遠方になる。だからか、滅多に帰省できなくて、反対に祖父母たちから遊びに来てた。
「この部屋、子供部屋ですから。本当は兄弟で使わせたかったのかもしれません」
ひとり部屋にしては広いとは思う。ただそんなこと、もちろん聞いたことはない。
「なるほど」
「生憎、僕しか生まれなかったから、一人で悠々と使ってるんです」
母から何故僕が一人っ子なのか、僕は聞いたことはないはずだ。もしかしたら小さいとき、弟か妹が欲しいと無理な願いを言ってたかもだけど覚えていない。
けど、いつだったかおばあちゃんから、母は僕が小さい頃病気になって大変だったと教えてもらったことがある。なんとなくだけど、だから僕は一人っ子なのだと納得していたんだ。
「すみません、こんなことになって」
「こんなこと? なんで謝るの? 願ってもないじゃないか」
「ね……願ってもない……なに言い出すんですかっ?」
思わず大きな声が出て、慌てて塞ぐ。隣には両親がいるんだ。
てか、この人、やっぱり僕と同じ部屋で寝るのを目論んでたんだ。三笠、もしかしておまえの言うこと正しいかもだよっ!
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