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第2話 違和感の回収
昨夜、先生はどうして僕に姉がいるか、そしてそれが『綾瀬美花』という、可愛そうな事件に巻き込まれた少女だと突き止めたのか、説明してくれた。
最初の問診で引っ掛かった『一人っ子』発言。もし、自分が思うように僕に兄か姉がいるのなら(この時はまだ弟妹の可能性も持っていたらしい)、何故両親はそれを隠すのか。
もしかしたら、それこそが僕の不眠症の原因なのかもしれない。先生はその謎を突き止めたくなった。
半分は医師として純粋に。そして半分は、おそらくその時から僕のことが特別気になっていたんだと。
それはなんだか、疑わしいな。僕が分かりやすく怒ってるので、なだめようとしてるんだよ、きっと(全く素直になれない)。
「それを確かめたくてご実家に行ったんだ。図々しいとは知りながら、押し切った」
「確かに、あの時はちょっと引いた。パートナーとして行くとか言い出すし」
「ああ、そう言えばそうだったね。はは。やっぱりあの頃から気になってたんだな。私もわかりやすいカマかけをするもんだ」
全く……あれはカマかけだったのか。油断も隙も無いな。
「そこで、まず発見したのは仏壇だった」
「ああっ! それ、どういうこと?」
「率直に言って、あれは君のお祖父さん、おばあさんの仏壇じゃない」
「え……! いや、まさか、そんなはず……」
おじいさんが亡くなってすぐ、我が家にやってきた仏壇……。僕はずっとそう聞かされてきたし、この間だって……。
「あれはね。もっと若い頃に、というか子供の頃に亡くなった女の子のものだよ。それはすぐにわかった。
光が知らないのは無理もない。私の実家は本家だから、無駄に大きい仏壇があってね。そこに位牌がずらーっと並んでる。祖父さんから、一通りの説明を受けてるんだ。まあ、一応、何代目かになる可能性もあるから……」
仏壇には確か位牌が二つあった。じいちゃんとばあちゃんのだと思っていた。けれど、先生によると一つはただの仮置きのものだという。
わかりやすく言うと、仏具店なんかに置いてある見本のようなもの。そしてもう一つが……。
「美花の……だったの?」
先生は形のよい顎を引く。
「じゃあ、僕がいつも拝んでたのは……」
姉の美花、みーちゃんのものだったのか。でも、僕はそんなつもりは全くなかった。心のこもらないお参りなんて、結局は意味がない。
「キッチンで手伝わせてもらって、他にも気付いたことがあった。多分お母さんたちは、君がいないときは仏壇にちゃんと美花さんの写真やお供え物を飾っていたんだろうね。
それをうかがわせるものが食器棚にあった。これはちょっと、お母さんが目を離したすきに私が探ったんだけどね」
あの宴会の最中に、先生はそんなスパイみたいなことを……。
「ご両親のみならず、亮市さんもまた、美花さんのことは一言も話さなかった。ただ、途中で亮市さんが、『女の子と間違えられた』と失言してたけどね。
これも憶測だけど、光は美花さんが生きていたころは、彼女のおさがりを着ていたんじゃないかな。それで、お母さんが慌てて話を変えた」
確かに……思い起こせばそんなことがあったような……。
「それで私は確信した。これほどに光に隠すには、美花さんが亡くなった原因にあるのではと。一番考えられるのは、事故か事件だ。正直に言うと、その事故に光が関わっているのではと恐れた」
「それは、僕の不注意でってこと?」
僕は自分で背中が寒くなるのを感じた。僕がまさかなにかしでかしたとしたら。
「20年ほど前の『綾瀬』、女の子、事件で検索した」
「それが……あの記事?」
先生は、少し申し訳なさそうな表情をして頷く。
「お父さんの名前が同姓同名だったし、場所はお母さんのご実家の近くだったからね。間違いないと思った。
君が関与してたような最悪なことは免れたけれど……このことで、光はPTSDを患ったのだろう。幼い頃だったから、忘れさせようとしても少しも不思議ではない」
不思議ではない。そうだとしても……僕はやっぱり釈然としない。ずっと騙されてたことを、僕はどう理解すればいいんだろう。
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