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第9話 三連休
「なに、綾瀬。三連休ってどういうことや」
会社の有休取得そのものは、システム入力―上司の承認で完結する。けど、不在の間の仕事の割り振りや会議の欠席等など、同僚にはおねがいしなくてはならない。
ということで、来週の月曜日から水曜日まで休みをとることを、僕は三笠に告げた。で、冒頭の返し。
「母方の祖父母の墓参りだよ。てか、まあ旅行だけど」
「墓参り? まあそれはええよ。でも、どうせ……おまえ、あの医師と行くんだろ? なんだよ、俺の誘いはいっつも断るくせに」
「このあいだ、一緒に飲みに行ったじゃないか。しかも無理やり先生を呼び出してさ」
美花のことを思い出し色々すっきりした僕は、ずっと棚上げにしてた三笠との飲み会を自分から提案したんだ。凄く喜んでくれたのは良かったけど、めっちゃ悪酔いして、先生を呼び出さないと暴れるって脅しやがった。
先生は僕の電話に笑って承諾してくれたんだよ。僕のお迎えも兼ねて、居酒屋に来てくれた。
「あー、そんなこともあったかいな? 俺、酔ってたからなあ」
「都合のいい奴だな」
「ま、その。天宮センセが紳士でめっちゃカッコよくて、綾瀬を大事にしてるってのはわかったから……」
「ああ? それを確かめるため呼んだのか?」
僕はあからさまにムッとして詰め寄った。
「だって、心配だったんだよっ。おまえ、さっさと手名付けられてさっ」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
三笠は大げさなため息を一つついた。
「ああ、そうやな。もう降参したよ。俺の邪推でした。旅行、楽しんで来てください。留守番はしとくから」
両手を肩の位置まであげ、首を竦める。まあ、そこまで卑屈にならんでも。
「お土産買って来るから。よろしくお願いするよ」
不在の間、迷惑をかけるのは間違いない。最後は下手に出て、僕はめいいっぱいの笑顔を向けた。
「ちぇ。その可愛い笑顔で、結局たぶらかしたんは綾瀬の方やったかもな」
「え? そう……かな。それなら少し嬉しいかな」
「なんだよ。もういいよっ」
えへへ。最後は一本とれたかな。あほな妄想に付き合ってやってきたんだから、少しはね。
新入社員に三日も有休をくれる会社と同僚に感謝して、僕の頭の中は既に旅行のことでいっぱいだ。
祖父母が住んでいた地域は、少し奥に行くと有名な観光地がある。温泉や美味しい料理、堪能できるように宿も取った。
――――旅の宿……。いよいよ、僕らの関係もさらに深まる……かも。
なんてちょっと卑猥な期待も胸に秘める僕だった。
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