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第10話 自分優先
祖父母が住んでいた家は、今現在、母の兄、つまり僕の伯父家族が住んでいる。一応挨拶には行くつもりだけど、敢えて泊ることはしない。先生と一緒だし。
それに、僕が見たいと思っているのは祖父母の家ではなく、僕ら家族四人が住んでいたところだ。あの事件があったから、もう家はないのかもしれない。
事故物件となったその家は、不動産会社に有り得ないほど安価で売り渡したと母が言っていた。お金には代えられない。
父方の実家に近い所に家を建てたのはそのためだ。その土地は、お祖父さんが持ってた土地だった。なんだかんだで、双方のじーちゃん、ばーちゃんには世話になってたんだな。
――――改めて、美花を失った後、僕を守ろうとしてる親族一同の気持ちがわかる。僕はそうやって、生かされてきたんだ。
「まずは美花さんの墓参りか。これは光のご実家のそばだな」
いざ、四泊五日の旅行に出発だ。先生の運転する高級車の助手席に乗り込み、僕は朝からハイテンション。11月の朝は少しひんやりとしてるけど、真っ青な空が高い!
「ああ、うん。母によれば、先祖代々のお墓の近くに建てたらしい。僕のいないときに、二人でお参りに行ってたんだよ。仕方ないけど……できればもっと早くに教えて欲しかった」
「それはね。怖かったんだと思うよ」
「怖い?」
先生は頷きながら、静かにアクセルを踏む。いつものサングラス姿がやっぱりカッコいい。
「光は何度か不眠症に襲われたことあっただろう? 高校受験や大学受験。多分それだけじゃなく、事あるごとに体調不良に陥ることがあったはずだ」
「ああ……うん……」
自分では気づけなかったけれど、確かに眠れなかったり、頭痛がしたりすることがあった。母はそんなとき、きっと必要以上に心配したんじゃないかな。
美花のことを打ち明けようと思っていても、体調を崩すのではと恐れていたんだ。
「そうだね。僕が自力で思い出すしかなかったんだ。うん。先生のおかげだね」
「ふ、ふ、ふ。名医だろ?」
先生の左手が僕の頭をぽんぽんとはたく。僕はその手をきゅっと取って、チュッとする。
「あ、こら」
「へへっ!」
こんなふうにじゃれてるのが最高に楽しい。みんなが僕を助けてくれた。3歳だった僕のまま、20年間も守られて。だから、今の幸せを大事にしたい。美花の分も幸せになりたい。
――――けど、それだけでいいのだろうか。みんなに恩返ししないとなあ。自分が幸せになる以外で。
それでもとりあえずは自分優先で。そのうち、自ずと自分のやるべきことがわかるようになるだろう。楽観的過ぎるかな。
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