第11話 一緒のお墓

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第11話 一緒のお墓

 お墓参りを済ませて、僕らは高速道路に乗った。夕方までにはH県に入る予定だ。  美花のお墓は、綾瀬家代々の墓地から数歩向こうにあった。墓石は横長の所謂デザイン墓石で名はなく、『愛を込めて』と綴られていた。その字の下には花束のイラストが彫られ、美少女だった美花の墓らしい。 『お母さんたちは、ここに一緒に埋葬してね。美花一人だと寂しいだろうから』  僕らから少し遅れて、母が墓参りに来た。もちろん、僕らが行くことを知らせていたから合わせてきたんだ。で、僕にこんなことを言う。  じゃあ、僕はどうすんだよ。僕だけ綾瀬家先祖代々の墓なのか。なんだかちょっとムッとしてると、すかさず母さんが。 『あなたは自分で決めなさい。自分で墓を作ってもいい。これからの時代、そういうのどんどん変化していくだろうし……』  ちらりと先生の方に流し目して言う。僕はその怪しい視線にドキリとしてしまった。 『わ、わかったよ。遺言はちゃんと励行するから』  と、言うに留めた。この話題をそのまま続けるのは危険すぎるよ。 「さっきの話、どう思った? というか、さっきの母さんの態度……」  行楽日和の土曜日というのに酷い渋滞もなく、車はまるで疾走する黒豹のように起伏のあるハイウェイを駆け抜けていく。他愛のない話をしながらも、僕は思い切って聞いてみた。あの視線を先生も気付いていたかな。 「さっきの? ああ、お墓の話か」 「そう、それ。僕には、あの墓に入る権利はないんか」 「ええっ?」  先生はいきなり吹き出し、それはないよと言いながら笑い出した。 「でも……」 「お母さんは、気付いているのかもな。私たちのこと」 「あ……やっぱりそう思う……」  やはり先生は気付いてた。てか、天宮先生が気付かないわけがなかった。そして母さんも。  僕が先生と共に母さんから真実を聞かされたとき、僕の感情は千々に乱れてた。先生に寄りかかったり、手を握ったりしてたの、見えないわけないよな……。敢えて今一緒に暮らしてることは言わなかったけど、ただの主治医がこれほど僕を気にかけ、行動を共にするわけないって普通にわかるよ。  ――――お墓か……今なら先生と一緒のお墓に入りたい。  なんて、言えないけど。 「私もどこの墓に入るかわからんしな。墓という形態も今度どうなっていくかわからない。お母さんの言うとおりだよ」  先生は養父である伯父さん夫婦の墓(二人はまだご存命だから、お墓があるのか不明だけど)には入りたくないのかな。情がないわけではないと思うけれど……。 「本当のお母さんのお墓じゃないの?」  この話を深堀するのはやめた方がいい。心のどこかでそう警鐘が鳴っていた。でも、僕は我慢できずに聞いてしまった。 「実母は結局、実家の、祖父母が管理してた墓に入ってるんだよ。つまり先祖代々的な。仏壇同様でっかい墓だよ。骨壺いくらでも入るって感じ」  時々墓地なんかで、庭みたいに広いお墓が存在しているのを目にする。盛土を綺麗な石で囲い、松なんかが植えられていたりする。そこにめっちゃ立派な墓石が鎮座してるんだ。墓にも歴然とした貧富の差がある。  天宮家は代々医師の家系と言ってたから、不思議な話じゃない。駅前の一等地にクリニックを開業できるくらいの財力なんだから当然過ぎるくらい当然だ。 「私を育ててくれた両親もそこだろうなあ。けど今の私はまだ、そこに収まるのに少し抵抗があるよ。ま、年取っちゃうと別の感情が湧き出て、気持ちも変わるかもだが」 「そ、そうだね……」  複雑そうな天宮家の話。僕はそこにはまだ突っ込めない。きっとまだ僕に言えないことがあるんだろう。 「今はね。光と一緒の墓に入れたらいいなってのが正直な感想かな」  自分が一番言いたかったことを、先生はさらりと言ってのけた。びっくりして先生の顔を覗こうとするけれど、サングラスに隠れた双眸は笑っているのだろうか。 「うん……僕も同じこと思ってた」  そんな遠い未来のことを、今から約束しても仕方ないことだ。そうわかっていても、自分の気持ちを正直に表したい。それができたことに、とにかく満足した。
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