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第19話 僕のせい
『そうかあ。彼氏のお身内が一大事なら、帰るしかないよな』
急いで帰路に着くことを告げると、亮市叔父は車のところまできて送ってくれた。わざわざ会いに来てくれたのに、こちらも申し訳なかった。けど……。
「ねえ、亮市叔父さん。覚えてるかな」
「なにが?」
「あの事件の後、僕と母さんがここにお世話になったとき……」
僕が母さんを半泣きで探していたとき、『にいちゃ』は小さい僕の腕を取り言った。
『なにか見たんやないのか? 見てなくてもなにか聞かんかったか? 本当に寝てたんか? 音がして起きたりしなかったんか?』
「僕に聞いたよね?」
先生が運転席に乗ってエンジンをかけた。もう行かなければならない。でも、もう少しだけ。僕は叔父の返事を待った。
「いやあ、そんなこと聞いたかな。覚えてないよ。けど俺もまだ若かったし、
美花のこと大事に思ってたから。もしかしたら、光がなにか見てないか、期待してたのかもしれんな」
「そうなんだ。そうかもしれないね。ううん、いいんだ。なんかそんな記憶がふと過って。今日はありがとう。会えてうれしかった」
僕は助手席に乗り込み、ドアを閉めてから叔父に手を振った。
――――そうか……。そういうことだったんだ。
ずっと大好きだった叔父から、詰め寄られた。僕はどこかで、みーちゃんがいなくなった事実を受け入れた。
それが、あの夜、僕が寝ていたために起きたのだと『にいちゃ』から知らされた。
『みーちゃんが寝るなって言う』
3歳の僕は、夜中に泣いて両親を困らせた。決して亮市叔父が悪いんじゃない。でも、これでなにが僕に起こっていたのか、わかったと思う。
僕は幼いながらも、自分のせいで美花が死んだのだと気付いていたんだ。
「こんなところですまない」
「僕のことはいいから、さっさと行って」
「ああ。また連絡する」
病院に直接行かせるため、僕は最寄りの駅で降ろしてもらった。ここで別れて一人で赤坂に戻る。
――――先生、いつ戻れるかわからないな。お祖父さんの状態次第だけど。
天宮家の財産は僕なんかが予想もできないほど莫大なものなんだろう。
先生から詳しく聞いたことはないけど、お祖父さんが所有している病院が色んな場所にあるみたいだし(クリニックペガサスは先生が所有者)、目黒の超高級住宅地にある家屋を始め、不動産は片手で足りないかも。それに、株なんかも相当持ってそうだし……。
『想像を絶する面倒なことになる』
それは疑いようがない。もちろん、お祖父さんが元気に回復してくれるのが一番だけど、いずれにしても、遠くない未来には起こることなんだよね。
先生が車の中で話してくれたことによると、天宮家の次期当主は長男である伯父さん(つまり、天宮先生の養父)ではなく、その下の弟さんに決まっているらしい(だから本家に同居している)。
これは天宮家の相続問題で、既に解決してる。長男でなく、次男になった理由は簡単だ。天宮先生の父親が誰かわからないからだ。実のお母さんはそれを決して明かさずに墓まで持って行ってしまった。
対して次男さんは子供にも恵まれ、既にその下の息子さんも医者を目指しているところらしい。正当な跡取りとして申し分ないだろう。
「ま、変にごり押しするような伯父じゃなくて、それは感謝してるよ。伯父が当主になったりしたら、またややこしいことになるからな」
先生は飄々と語るけれど、思うところはないのかな。先生の本当の気持ちは、僕には計り知ることはできなかった。
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