第2話 『寝ては駄目』

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第2話 『寝ては駄目』

 突如として脳内に流れてきた美花の声。僕は小さく『あっ』と漏らす。 「どうした? 変な声出して」  今の今まで黙り込んでいた先生が僕の声に注文を付けた。 「あ、ううん。なんでもない」 「そう? ならいいけど……。で、話は戻るけど、3歳児の光は警察から質問とかされたのかな?」  途端に話題を戻してきた。というか、まだ続いていたんだ。僕は自分がなにか思い出したような気がしたけれど、それを一旦よそに置いた。 「いやあ、どうだろう。覚えてないや。でも、きっと聞かれたよね。で、多分、まともに応えられなかった」  全ては記事が物語ってる。僕は寝ていて、なにも気付かなかったんだ。もし起きていたら、ここに僕はいないよ。 「じゃあ……寝る前になにか美花さんと話さなかった?」 「え……」  そう、それだ。さっき横に置いたばかりの『何か』。先生は気付いていたのか。 「それが……実は今の今までそんなこと考えてなかったんだ」 「じゃあ、今は考えてみたんだね?」  ううむ。これは診察か? なんだか誘導尋問めいてきたぞ。 「先生、なにが言いたいの? ねえ、気が付いてることあるんでしょ? もったいぶらないで教えてっ」  頭の中がモヤモヤしている。記憶の断片が繋がるようで繋がらない。美花のことを思い出してから、時々夢に現れる彼女。それはただの僕の妄想なのか、それとも記憶なのか。  僕は隣に座る先生に詰め寄る。 「光……誤解のないように聞いて欲しいんだけど……」  微妙な間を置いて、先生は口を開く。先生の視線がいつものように僕の心の奥底まで見えるているかのように鋭い。僕はごくんと唾をのんだ。 「私は、光がずっと聞いていた声」 『寝ては駄目。起きていて』 「それは、光の想像とかじゃなく、実際に美花さんが言っていたのだと思ってるんだ」 「それ……それは……」 「君が自分を責めるんじゃないかと思って、なかなか言い出せなかったのだけどね」 『寝ては駄目。光、起きていてよ。みーちゃんがいいって言うまで起きててよ』  その時、あの夜の美花の声が、僕の脳裏に鮮やかによみがえった。
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