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第4話 ミステリー小説
「え、綾瀬って。お姉さんがいたんか? 一人っ子って言ってなかったっけ」
会社の昼休み。食堂でAランチを三笠と食べていた時、ふと漏らした一言に三笠が食いついた。最近大人しいけど、またなんか悩み事かと聞かれ、つい
『姉のことでちょっと』と言ってしまった。
「ああ、そうか。そうだよね。話せば長いんだけど……」
「長くてもいいよ。綾瀬の悩みならなんぼでも聞いてやる」
いや、マジで昼休みでは話し足らんのだが……。
「腹違いのお姉さんでも現れたんか?」
ううむ。これは黙っていると。またわけのわからん妄想をされそうで怖い。
「違うよ。姉は……僕が3歳くらいの時に亡くなったんだ」
「え? そうかあ。すまん、そんなこととは知らんかったから」
「謝らなくていいよ。僕だって……つい最近聞いたんだ」
「へ? なにそれ。どういうこと?」
結局僕は、最初から説明する羽目になった。当然昼休みでは終わりようがない。かといって仕事中に語ることは僕が嫌だ。そんなに淡々と話せるほどまだ僕の中で解決していないんだ。仕方なく、僕は三笠と飲みに行くことになった。
『了解。私も今日、行くところがあるので楽しんでおいで』
先生にメールで伝えるとそんな返事が。あれから僕らはあまり美花の話をしていない。あとはなにかきっかけがあればと先生は言うので、その取っ掛かりが見つかるまで小休止といったところだ。
――――三笠と話してて、何かをポンと思い出す。とか、ないだろうなあ。
三笠と行く店は決まってる。安いが美味い居酒屋。半個室の部屋もあるので、馬鹿な話も上司に聞かれると都合の悪い話もできるのだ。
「それマジなんか。なんと……お姉さんは気の毒やったなあ。けど、綾瀬の話ってミステリー小説が書けそうや」
だいぶ酒が入ったころを見計らって、僕は割と素直に今まで起こったことを話した。
もっと酔っぱらえば、ほぼ忘れてしまうだろう。こいつの酔いは関西弁が強くなったことで測れる。
「解決しないと無理だろ。強殺犯人はわからないよ。残念ながら」
でももし小説となるなら、これは僕と先生の恋物語も重要なファクターになるのかな。それともそんな話はなかったことになって、医者と患者だけの関係になるのか。いや、それでは色気が無さ過ぎ……。
――――なに考えてんだ。僕は。
三笠みたく妄想の世界に足を突っ込みそうになった。
「いんや。小説ならこうなる。実は犯人は身近にいたっみたいな」
やはり妄想では三笠の足元にも及ばなかった。
「あほか。それも有りえん」
一笑に付す。そんなことが真実なら、さすがに20年前の警察が捕まえてるだろ。
「犯人は何食わぬ顔で生活し、偶然にも20年後、被害者の弟に会う」
「はあ? なんだそれ。おまえのことか」
「なわけないだろ。俺は綾瀬と同い年や。違うよ、その人は紆余屈折を経て精神科医になってるんだ。それで、おまえの記憶を取り戻そうとしつつも、戻った暁には……いてっ」
僕は問答無用で三笠の頭を叩いた。妄想が過ぎる。
「先生だって、20年前は9歳だよ」
「え? 天宮医師そんなに若いの? へえ。もう30半ばかと思ってた」
こいつ、本気で可能性考えてたんじゃないだろうな。先生は確かに落ち着き方からそう見えても不思議じゃない。ただ、眼鏡を外した素顔は……ひゃあ、なんかドキドキしてきた。
「あ、ホンマや。クリニックペガサスに経歴載ってた」
「どんだけ疑ってんだよっ!」
僕はもう一度スマホを覗く三笠の後頭部を叩いた。
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