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食事の後、煌星が洗い物をしている間に俺は風呂に入ってきた。キッチンに立つ煌星の姿を久々に見て俺は安堵する。
――いろいろあったけど、これが一番しっくりくるよな。
「凪、本当にミルクティー飲む?」
「うん。もうネタバレしてるから、催眠かかったりしないよな?」
「たぶん……」
「じゃあ飲む」
煌星がミルクティーを作るところを今まで注意して見たことはなかった。彼の肩越しに鍋を覗き込む。
「へー、こうやって作るんだ」
「簡単でしょ?」
「自分でやるのはめんどいかな」
煌星がくすっと笑う。
「はい、どうぞ召し上がれ」
ソファに座って一口飲むと、柔らかい甘みが口の中に広がって俺は目を閉じた。
「は~、うまい。――なぁ煌星、俺眠くなってきたんだけど」
「な、凪!?」
「うっそ~」
焦る煌星に俺は舌を出して見せた。すると彼は「脅かさないでよ」と言いながら俺の隣に腰掛けた。ミルクティーを飲む様子を煌星がじっと見ている。
「こんなんで俺本当に催眠かかってたの? 知ってて飲んだらなんでもないんだけど?」
「全部飲む頃には、ふにゃふにゃになって僕に抱っこをねだってたよ」
――うげ~まじかよ。こわ!
「凪、そんな顔しないでよ。もうしないから。でもこれからは催眠なしでいつでも甘えてね」
「……でも恥ずかしいんだよな」
「大丈夫だよ。慣れたらなんともない。Subならみんなしてることだから」
煌星が真顔で迫ってくるので俺は手で押しのけようとした。
「顔ちけーよ」
「凪の可愛い顔、なるべく近くで見たいんだ」
――はっず……。はちみつミルクティーよりゲロ甘か。
「凪が俺のこと誘ったんだよ。ねえ、もうプレイ始めてもいい? 僕もう我慢出来ない」
耳元で低く囁かれる。シラフではプレイに慣れていない俺はこんなことだけで顔が熱くなってしまう。
「……でも、まだこれ全部飲んでねーし――」
「飲みながらでいいから、ね?」
イケメンDomの顔圧に負けて俺は頷いた。
「――わかったよ」
「じゃあ、セーフワード決めようか。何がいい?」
「うーん……なんだろう……」
「僕が思わず冷めちゃいそうな言葉。何か思い浮かぶ?」
俺はあれこれ考えた末、ひとつ良いことを思いついた。
「あ、わかった! 茜音は?」
それを聞いた煌星が顔をしかめる。
「……あー……それ最高。どんなに凪の魅力で頭バグってても一瞬で目が覚めそう」
「じゃあセーフワードはアカネな」
煌星は複雑な表情で頷いた。茜音もまさか自分の名前がセーフワードにされているとは思わないだろう。
「でもセーフワードを使うような無理なことはしないから安心して。それじゃあ凪。まずはこれ全部飲み干してみて」
「わかった」
俺が残りのミルクティーを飲み干すと、煌星が俺の頭を撫でた。
「Good boy 凪。カップをちょうだい。オーケー、じゃあ次は基本中の基本でいこうか。Kneel」
――うわ、そうきたか。
ソファから降りて、俺は煌星の足元にひざをつき、床にぺたんと座る。初めてやったけど、コマンドに従うのって悪い気分じゃない。煌星は優しい眼差しで俺のことを撫でる。
「いいね。上手だよ凪。じゃあ……今度はKiss」
「え~! それは恥ずいよ。何か他の――」
「Shush! Kissだよ、凪」
不平を言ったら叱られてしまった。
「うぐ……わかったよ」
俺は立ち上がって煌星の端正な顔に手を添えた。催眠中の記憶はないので、俺にとっては初めてのキスだ。目を瞑っている彼の顔をギリギリまで見つめながらそっと唇を重ねる。
――煌星は俺のDomなんだ。もう他の女性を羨む必要もない。
唇を離すと、煌星がうっとりした表情で微笑んだ。
「ああ……今最高の気分だよ。Good boy、完璧だね」
俺はそのきれいな笑顔に見惚れた。煌星が嬉しそうに褒めてくれるのって、めちゃくちゃ気持ちがいい。ふわふわした気分に浸っていると、煌星が突然俺の体を横抱きにし、有無を言わせず立ち上がった。
「えっ、なに?」
びっくりして煌星の首にしがみつくと、なんとなく以前もこうやって運ばれたことがあるような気がしてきた。「よくできたいい子にはご褒美だよ」と彼が俺の頬にキスする。
「ご褒美?」
「凪の好きなところ、隅から隅まで僕が可愛がってあげる」
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