3.隠れSubの爽やかな朝

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3.隠れSubの爽やかな朝

 翌朝目が覚めると俺の体はスッキリして軽くなっていた。 ――やっぱ煌星のミルクティー効果は間違いないな。  煌星は俺が本気で疲れている絶妙なタイミングであのミルクティーを出してくれる。俺の体のことは彼のほうがよく知っているくらいだ。  基本的に俺の体調管理はあいつがしてくれてる。数日おきに部屋にやってきて料理をし、多めに作ったおかずをご丁寧に小分けにして冷凍までしてくれる。だから料理なんてする暇のない俺でもコンビニやスーパーの出来合い品で食事を済ませることはほぼなかった。 「あいつが女だったらいい嫁さんになるだろうな」  自分でそんなことをつぶやきながら、煌星が誰かと結婚する未来なんて相手が男だろうと女だろうと考えたくもなかった。  仕事帰りに俺の部屋に電気が付いているのを見て舌打ちしながらも内心ホッとしている。それは相手が煌星だからだ。あいつがまだ他の誰かじゃなく、俺のために時間と手間を惜しまずにいてくれる――いつか終わりが来るとわかっていても、その時が来るまでは現実に向き合いたくなかった。  これまでだって、煌星は何度も女の子と付き合ったり別れたりしてきた。あいつに彼女がいる期間は俺の部屋に来る回数が減る。だけど煌星は一度も隣の部屋に彼女を連れてきたことはなかった。もしそんなことをされたら俺は嫉妬でどうにかなっていただろう。  俺はもういつからかわからないほど前から煌星に対して恋愛感情を抱いている。あいつが女としか付き合ったことがないのを知っていて、この気持ちを捨てきれない自分が嫌だ。俺の世話を焼くあいつに、なるべく辛辣な口調で対応していないといつか口を滑らせてしまいそうで――何かのはずみに煌星のことを好きだと言ってしまいそうで怖い。  だからなるべく一緒にいたくない。なのにそばに居て欲しいという矛盾した感情で身が引き裂かれそうになる。  起き上がって顔を洗う。鏡に映るのは男らしさとは無縁の卵型の顔。カットしに行くのが面倒で伸び気味の黒い髪はツーブロックにしたはずだけど、サイドの髪ももう耳に掛かりそうだった。  昨日よりもずっと血色が良くなっている。目の下に少しクマは残ってるが、これなら薬を飲まなくても良さそうだ。  俺は第二性がSubで、本当ならDomのパートナーでもつくって定期的にプレイしないと体調が悪くなる。だけど自分がSubだとは煌星にだけは絶対知られたくない。だからパートナーなんてつくらず、なんとか薬を飲んで症状を抑えていた。幸い薬は効きやすいタイプで、深刻な症状が現れたのは二十七年間生きてきて数回しかない。  しかもそれがいずれも短期留学や出張など煌星の不在時と重なっていたから、彼にはバレてない。あいつがいない間にこっそり親戚のダイナミクス専門医に診察してもらい、なんとかしのいできた。  Subは支配されたい、庇護されたいという欲求が強く、この性質上Subの方がどうしてもDomに従属するような立場になりがちだ。しかし煌星はDomなのに支配欲は薄く、庇護欲の方が勝るタイプらしい。それで俺みたいな半端者を気にかけて何かと世話をやいてくれる。  昔はむしろ逆の立場だった。煌星が俺の実家の隣に引っ越してきたとき彼はいじめの標的になっていた。それを助けたのが一つ年上の俺。家が隣同士だったこともあり、俺達は急速に仲良くなった。  俺はあいつの兄貴分で、俺があいつを守ってるんだと信じて疑わなかった。だけどそうじゃないとわかったのは高校に入った頃だった。
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