4.煌星のヒーロー

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4.煌星のヒーロー

 僕――三浦煌星はDomだと判定される以前――子どもの頃、妙に他人を威圧する子だと親に煙たがられていた時期がある。今思えば、グレアを既に発してしまっていたのだろう。  容姿が整っていて勉強もスポーツも出来たので小学校高学年になるまではクラスの中心的なポジションにいた。僕はこの先も何もかもが自分の思い通りになると思っていた。  しかし小学校四年生くらいになるとつまらぬことで無性にイライラするようになった。母は最初「反抗期かしらね」と笑っていた。それがだんだん自分でも怒りをコントロールできなくなり、人を睨みつけただけで相手の具合が悪くなるケースが何度も起きるようになった。次第に小学校の先生にも気味悪がられるようになり、直接誰かを殴ったわけじゃないのに親を呼ばれて説教されることが増えた。  結局人間関係がうまくいかず、小学校五年生の時に母の生まれ故郷に引っ越しを余儀なくされた。仕事のため、父だけは元々住んでいた都内に残った。  父は怒るし母も泣いていて、今度学校で問題を起こしたら二度と都内には戻さないと言われた。僕はこんな何もない田舎にずっといるなんて嫌だった。一つ上の姉も道連れで転校させられたことにかなり怒っていて、僕は元の家に帰るためなるべく大人しくしていようと思った。  しかし今度は転校してすぐにいじめの標的になってしまった。髪も肌も色素が薄めだったので田舎では悪目立ちしたのだ。都内の私立学校では誰も気に留めなかったのに――これだから田舎者は。  帰り道、いつも僕をいじってくる同級生たちに髪色を揶揄され毛髪を引っ張られていた。大人しくしているからひ弱に見えたのだろう。こんな奴ら、ひと睨みすれば言うことを聞かせれるのに――。そう思いつつ、そうすれば一生ここに住むことになると思いなんとか耐えていた。すると背後から甲高い怒鳴り声がした。 「てめーら、その手離せよ!」  振り向くと目つきの鋭い女子が走ってきていきなり髪を掴んでいた男子に蹴りを入れた。 「毎日毎日、うざいんだよ! 散れ!」  その子を見た同級生が急に慌て始めた。 「やべー、ナギだ」 「おい逃げようぜ」  そして皆一目散に逃げていった。それを呆然と見ていると、ナギと呼ばれた子が僕に言う。 「お前なんで言い返さないんだよ。背だけはデカいくせに、口がきけないのか?」  目つきも口も悪いけどキレイな子だ。しかも強い。 「なんだ? 本当に喋れねーの?」 「あ、しゃべれる……」 「んだよ、喋れるじゃん。大丈夫か? あんなん黙ってたら髪抜けてハゲるぞ」 「うん……助けてくれてありがとう」 「別に、帰り道なのにお前らがチンタラ歩いてるからだるかっただけ。じゃーな。俺こっちだから」 「あの、僕もそっち……」 「そうなの?」  その後たどり着いた家がなんと隣同士だった。 「へー、こないだ引っ越してきたのお前んちだったのか。俺六年の西岡凪」 「僕、五年生の三浦煌星」 「またあいつらにいじめられてたらお隣さんだし助けてやるよ」  僕はナギのことを口の悪い女子だと思ったけれど、後から男だと知って驚いた。綺麗な顔立ちだし、黙っていれば都内の学校でもモテるだろう。でも、何せ口が悪い。学年の違う僕から見ていてもすぐ女の子を泣かせるし、ちょっと頭も悪くて子どもっぽいところがあった。六年生にもなっていまだに自分のことをアニメや特撮のヒーローだと思っているのだ。   だけどなんの楽しみもない田舎暮らしにちょっとした刺激が加わったみたいな気がして、僕は凪が気に入った。  凪は強がっているけどたまに寂しそうな目で僕を見ることがあった。多分本人も気づいていなかったと思う。凪は僕を守ってるつもりでおそらく本当は守られたいって思っていたんだ。  彼はわざと暴力的に振る舞っていたけど、そうしないとあの見た目ではいじめっ子の標的になってしまう。だから無理してやんちゃなふりをしているのだ。誰も容易に近寄ってこられないように――。  僕はいじめられてもわざと弱々しく振る舞って、凪に助けてもらうことにした。凪がヒーローでいられるように。それは大人になった今でも変わらない。 『自分じゃ服を選べないから今日買い物に付き合ってほしいな』と凪にLINEで連絡する。  凪は僕を助けるために一緒に出掛けてくれるだろう。  今のところこうやって凪を繋ぎ止めてそばにいることだけが僕の生き甲斐だ。
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