5.俺が自尊心を保てる理由

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 高校に入るとダイナミクスの特徴が現れる生徒がちらほらいて、その一人が煌星だった。ただし本人は特になんとも思わなかったみたいだ。Domだとわかったからといって煌星が変わることはなかった。  以前と同じく優しい王子様キャラで女子に好かれていたし、ご近所さんとして何かと理由をつけてうちに来た。陰キャで何もできない俺を兄のように頼りにしてくれ、あいつに彼女がいない時期は俺の部屋で一緒にゲームばかりやっていた。  さすがに大学は別の所へ行った。煌星は父親の住む都内に戻り、有名私立大に通った。小学生の頃出会って以来、大学時代が一番煌星と離れる時間が長かった時期だ。そしてちょうどその頃俺は体調を崩し、通院したことでSubだと診断されたのだった。  俺は煌星のヒーローとして十分失格だったというのに、更にSubだなんて絶対知られたくなかった。だからこのことは煌星には言わなかった。 「ちっ。こんな高いTシャツ、着ていくところなんてねえんだよ」  五万もするTシャツを部屋着にしろだなんて、頭どうなってるんだよ?  ◇  翌朝オフィスに行くとエレベーター前で後輩の津嶋(つしま)と一緒になった。 「西岡さんおはようざいます」 「あー、おはよ」 「あれ? 先週地獄だったのに土日ですっかり復活してるっすね。肌ツヤツヤじゃないすか。髪もさっぱりしちゃって」 「は? 別に普通だろ」 「いえいえ、金曜帰る時ひっでー顔でしたよ。こりゃ月曜出て来ないんじゃないかなんて俺、山村さんと話してたくらいですし」 「へー、そう」  どんだけくだらないこと話してるんだ。 「先輩に倒れられたら俺らもキツいっすから。特に山村さんは皆の体調管理に命かけてるっすもん」  山村は先輩社員で、俺の同期が俺以外皆辞めた責任が自分にあると思ってるような人だ。だけどこの会社がブラックなのは山村のせいじゃなくて社長のせいだろ。  社長は自分の経験から「忙しくてナンボ」だと思ってる。残業してない奴は仕事してないレッテルはられて嫌がらせされ最後は自主退職に追い込まれる。そんな社員が毎年多数いて、入れ替わりの激しい会社だ。俺なんてまだそんな年数働いてないけど、同期やそれ以上の年数の人たちがどんどん辞めまくったせいで古株みたいな扱いをされている。   こんな会社で働き続けるメリットなんて無い。だけど、俺は自分の能力が足りないのはわかってるし、比較的怒られ耐性も強い。これはSubだからってのもあるけどな。  それに、どんなに仕事がつらくても帰ったら数日に一回は好きな男が家で待ってるからなんとか耐えられる。 「あ、そうだ。今度また社長が飲み会やるって言ってましたよ」 「は? またかよ。いつ?」 「えーと、再来週だっけな」 「まじか……やっと先週の仕事片付いたけどまたその頃ってやばくなってそうじゃね?」 「ええ、たぶん」 ――仕事しろって言う割に飲み会で邪魔してくるのは誰なんだよ。
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