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想い人とは別の人(?)に認知されていたけど、それはまあ、黙っておく。ついでにその思い込みが早とちりだったってことも黙っておく。
「……図星を突くな、蓮くん……。ちょっとは思いやりの心を持って……」
「心で駄目なら化粧だって! 枯れるのはえーぞ!」
二人でやり取りをして、少し鬱々とした心が晴れる。そもそも目立つ容姿でもないのに、電車で見かけるだけの人に認知してもらおうなんて考えが甘かったのだ。彼は人目を引く容姿だったから光月の目を奪ったけど、光月は平凡な成りだから、彼の意識を奪えなかった。それだけだ。
「はー……。しかし、記憶のある限りで、一度も恋が実ったことない、連敗続きの私ってどうよ?」
まさか神さまが恋路を邪魔していたとは言えないし、その神さまに求婚されたとも言えない。
「捨てる神ありゃ拾う神ありっていうじゃん。光月が最終的に行き遅れたら、俺が貰ってやるから安心しろって!」
成程、弧之善は拾う神というわけか。まさしく神さまだけど。
「年の差激しいなー。更に私は、年下には興味ないんだけど……」
「贅沢言えるうちが華じゃん。そんなに彼氏欲しいなら願掛けでもしたらいいのに」
光月と蓮の話をにこにこと聞いていた久子が、あのね、と話に加わって来た。
「山すその神さまは、もともとはうちの屋敷神さまだったのよ、蓮ちゃん。おばあちゃんたちのご先祖さまが商売を始めた時にうちで祀ってね。その何代か後のご先祖様が、この村を守ってもらおうとして、土地神様として改めて村のみんなでお祀りしたのよ」
「土地神様なんだから、恋愛どうのっていうより、村が賑わうように祈ったほうがいいのでは……」
弧之善は光月との恋愛を進めようとしているが、弧之善の恋云々の前に、弧之善が月湧村の賑わいを取り戻してくれるよう働かなくてはいけないのである。そうでないと、この村は消滅、村人が居なくなれば、人の信仰によって存在している弧之善も消滅だ。
意外と危機意識のなかった弧之善にびっくりしながら、自分が消滅することすらも気に掛けられない程光月に心を傾けているのだろうかと思うと、それは驚きと同時に恋に破れ続けてきた乙女として、自分の存在を掛けて光月に恋をしてくれているって、ドラマティックな小説みたいできゅんとする。
「っていうか、まずこの店の未来を憂いた方がいいぞ」
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