193人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
神さまからの求婚!?
(はー、今日もカッコいい……)
光月は夕方の帰宅時にこの路線で時々会う、憧れの男性を乗客に紛れて盗み見ていた。東京都心とは違い、地方の私鉄ダイヤはラッシュアワーでも十分間隔なんてざらで、だからこそ出勤退勤の時間が重なれば、こういうラッキーなことも起こる。
細い水色のピンストライプのシャツの襟元を、クールビズだからか第一ボタンまで開けている。ジャケットは涼し気なグレー。のどぼとけがいかにも男性のそれで、声はどんな声音なのだろうかと想像してしまう。髪の毛は短めの前髪をワックスで立ち上げており、後ろ髪は短く整えられていて、清潔感溢れる様相だ。目鼻立ちもすっきり整っていて、賢そうな雰囲気だ。
「今日も会えたね」
「うん」
途中の駅まで路線が一緒の同期の蒼依が、光月の恋を知っていて話し掛けてくる。
「でも、言わなきゃ気持ちは通じないんだよ?」
「分かってるよ、分かってるけど……」
それでも、彼を見かけるたびに胸を満たす、この甘く痺れるような麻薬にいつまでも溺れていたくて、なかなか決着をつけられない。うだうだと彼への恋心を打ち明けられない勇気の無さを蒼依に零す。
「あんなにカッコいい人だもん……。きっともう、彼女が居るよ、絶対……」
「でも、聞いてみなきゃ、お手付きかフリーかどうかも分からないじゃない」
「それはそうなんだけどぉ……」
仕事と暑さで疲労の色を見せる多くの乗客の中、彼はいつも通りスマホじゃなく静かに文庫を読んで……。
って、あれ? 本を閉じた?
えっ? こっち来る!?
そんな風に心臓がテンパってたら、彼が光月の前まで来て……。
「あの……、良かったら、連絡先、交換してもらえないですか?」
彼が差し出したスマホは、蒼依の方を向いていて。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
三者三様に、驚きの表情をした。
――――『ごめん! 光月! 光月の恋路の邪魔をするつもりはなかったんだよ!』
――――「そんなの、分かってるよ~。いつものことじゃない、気にしてないよ」
最初のコメントを投稿しよう!