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ごうごうと嵐が吹き荒れる中、地上では通りかかった村人によって水路から引き上げられた光月の体が横たえられていた。その傍らには泣き叫ぶ蓮と、騒ぎを聞きつけて来た祖父母が居た。弧之善は水面に浮かび上がる前に手に捕らえた光月の魂を大事に持ったまま、気力を振り絞って光月の傍へと歩み寄った。煌と瑛の神力を戻してもらったとはいえ、水の中ではかなりの力を使った。
「光月……、殿……」
息の荒い中、いとおしそうに光月を見る弧之善に、蓮は半狂乱だ。
「にーちゃん、にーちゃん! 光月はどうなっちゃったの!? 俺の代わりに溺れた!?」
「蓮殿……。大丈夫だ、私が、……光月殿を救う」
横たわった光月の傍に跪いた弧之善が、胸の前で手を組む。手の中には水の城から救い出した光月の魂が光っていて、弧之善が祈りの言葉を詠唱する。
『我が名、弧之善において、竹村光月の人生を照らす光と成す。命よ、己が道へと戻れと、宣る!』
弧之善の宣誓により、光月の魂は輝かしいばかりに光を放ち、ミズサワが起こした嘆きの嵐によりなぎ倒された木々で荒れ果ててしまった辺り一帯を包み込む。その場にいた面々が驚きを持ってその様子を見つめていた。光月の魂は弧之善が組んだ手をゆっくりと光月の体に押し込んだことにより、その命を体に宿し、頬に赤みがさした。水に濡れたまつげがふう、と持ち上がり、ぼんやりとした目で中空を眺めた。
「光月! 光月!」
「光月ちゃん!」
駆け寄って自分を覗き込む蓮や祖父母を見透かして、光月は何処かを見た。
「……弧之善様……?」
ぽつりと零した名前を有したその人は、光月を見つめて淡く笑う。
「光月殿……。光月殿の心、私のものだと言ってくれて、嬉しかった」
「だって……、そうなんだもの……。弧之善様が狂ってしまう未来しかないと分かっていても、止められなかったわ……」
震える手をその人に向けて持ち上げる。しかしその手は、その人を捕らえられない。光月の手は、その人を求めて空をさまようが、どれだけ目に映る彼を捕らえようとしても、手には何も感じられない。
「その言葉、聞けて嬉しかった。もう、思い残すことはない」
「ねえ、やだよ!? これっきりお別れなんて嫌! 弧之善様、居なくならないで……!」
「月湧に託した名を、大事にしてくれ……」
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