神さまからの求婚

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 そう。動画に映っている弧之善は、人型を保ち切れなかったらしく、狐の耳と尻尾が出ていたのだ。弧之善は、光月を助けに水の城に来てから、ミズサワの力を分けてもらうまでの間、その格好だったのだ。耳と尻尾が作り物だという人がいる一方、光が人の体に吸い込まれていった動画を見て、そのファンタジックな現象を現実だと受け止める頭の柔らかい人もいて、そういう人たちが弧之善を、恋した相手を守った英雄、つまり『恋の守り手』として注目してしまっていたのだ。 「神さまはお社で休憩中です。良かったらお参りしてあげてください~」  弧之善の顕現が引き起こされたことによって、月湧の人たちにも信仰心が少し戻ったのか、みんなで弧之善の社と鳥居を綺麗にしよう、という話が出た。おかげで鳥居の古ぼけた朱塗りはそのままだが木の枝や葉はきれいに掃除され、古びた社までの石段も参道らしく掃き清められた。社の修繕も、本格的にはこれから行うが、祭りに間に合わせて正面だけは見られるようになっている。 「まさか、光月が神様と付き合うことになるなんて思いもしなかったわ~」  蒼依がそう言って、シュー生地を混ぜる。光月も、蒼依より先に恋人が出来るとは思わなかった。弧之善による光月の救出劇に興味を惹かれてやって来たお客が、弧之善の許にお参りに行くことで、人の祈念という形で、彼は力を蓄えていることだろう。自分が話題の渦中にいることは恥ずかしいが、それによって弧之善が元気になるんだったら、それはよかったと思う。 「光月殿」 「わあ!」  祖母と売り子を変わって土手の端で休憩していたら、不意に背後から声をかけられた。 「弧之善様。今、お参りに行った人がいたと思うのに!」 「構わぬよ。聞こえるし、視える」  神さまらしいことを言って、弧之善は光月の隣に座り込んだ。 「人と神あやかしは違う時を生きることは、ミズサワを見て分かったと思うが」  恋に狂って時を忘れてしまった、哀れな神さま。それでも彼が恋をしなかったらよかったのに、とは思えない。時を経て恋焦がれるほどに、相手を思えるって、素敵なことだと思うから。 「それでも私は、光月殿に求婚出来る資格を持っただろうか」
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