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タカヤマサチコヲコロシマショウ
もう逃れられないのか?
友樹も理子も母の美子も食事を取る気にもなれず眠りも浅く急激に痩せていった。
最初はひどく心配してくれた理子の彼氏、健人も会うたびに不健康になっていく。二人でいる時も呪いのようなメロディーが聞こえ、唱子らしき杖をついた女の幻を見た。
「幸子おばさんが悪いのよ!私までどうして?」
耐えきれずに理子は幸子に会いに行った。
「呪い!呪いなのよ、幸子おばさん。私の家族も皆」
「理子ちゃん、呪いなんてないの。私は病気だから薬で治すのよ。現代医学よ」
「お父さんとお母さん、私。健人くんもなの。弱っているの。七代祟るって呪いなの」
「絶対に無いわ。気にしすぎよ」
「唱子さんに謝罪して」
「しないわよ、あんな間抜けに」
「お願い!」
理子は必死だ。
タカヤマサチコヲコロシマショウ
また聞こえてくる。それも幻聴なのか。
唱子は近づいて来る。
歌いながら幸子の部屋へと入って来る。
理子は息をのんだ。
二人は見つめあったままだ。
「マダ、コロサナイワ」
「先に死ぬのはあなたよ。人の家に入って来ないで。警察を呼ぶわ」
強く言い返したのは幸子だ。
「頼むからやめて、唱子さんにあやまって。お父さんもそう言っているの」
理子はなおも必死だ。死にたくない。
「サチコ~ シアワセデナイ~ ショウジョ~
サチコ~ イキテハイケナイ ショウジョ~」
唱子が唐突に、低く意外にも力強い声で歌い出した。
さすがの幸子がぎょっとした顔に変わった。
「あ、あなたに言われたくないわ。私はきれいだし頭もいいし。のろまなあなたとは違うのよ」
「高校受験ニ失敗シタナ」
「それがなんなのよ」
幸子は本当は気にしていた。
公立高校のトップ校を目指していたが、
教師には二段階レベルを落とした学校を勧められ、おまけに不合格。
パッとしない高校、大学へと進学した。子どもの頃からの夢であったアナウンサーをめざすには不可能な学力だった。また、自分が満足するほどにモテなかったのが納得できない。
「いじめられるようなタイプのあなたがいるからよ!」
「サチコ~、サチコ~、サチコ~」
「死んでもないくせにつきまとわないで。帰って!」
そうだ、霊ではないのだ。警察を呼ぶ問題だ。だが理子は動けない。
「死ンダラ、ツキマトッテモイイノカ」
理子は心底ぞっとした。
唱子はベッドに上がると幸子にぴったりと張りついた。
「ウフフフフフフ。ヤッツケテヤル」
唱子が幸子の胸を揉み始める。
「理子ちゃん、こいつを離して。なぐっていいわ」
理子は全力で引き剥がそうとする。唱子も幸子の身体を抱きしめて離さない。
「お願い、お願い。どうしてこんなことになるの。唱子さん、あなたを殴ることはできない」
理子はただ怖かった。
「ウフフ、理子サン」
唱子が理子の方を向いた、力が余って理子も唱子を抱きしめる形になった。はっとして、理子は腕をほどいた。しかし、唱子は幸子の頬を思い切りひっぱたいていた。
「痛い、理子ちゃん、こいつをぼこぼこにして」
唱子は幸子の唇をむんずとつかみ、ぐにゅりと回すとまた幸子をひっぱたいた。
「ドノ口ガ言ウ」
「おばさん、謝罪して」
理子はパニック状態。
「カワイイワネ、理子サン。オ話シシマショウ」
今度は唱子が理子の背後に立つ。
「タカヤマサチコヲコロシマショウ」
「ひっ!」
後ろから理子の胸を揉みしだき、つかんだそのままで唱子は動かなくなった。
理子はようやく、手を払いのけようとしたが固まったように動かない。唱子の手は冷たかった。
数時間後に、ようやく友樹と健人が部屋に飛び込んで来た。
警察と救急隊もやって来た。
唱子の心臓は止まっていた。
幸子はまだ目だけを動かし咳をしていた。
理子は意識はあり、何度も悲鳴をあげた。
唱子の手を理子の胸からはがすのは難渋した。
理子はまた叫んだ。
「唱子さん、許して」
一部始終を見ていた幸子はまだ生きている。
「理子ちゃん、私が悪いんじゃないから謝らないわよ。薬が効いてきたから寝るわね」
終わり
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