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父の友樹が帰宅してから理子は今日出会った女の話をした。
友樹も青ざめた表情になり、言った。
「その女、脚が悪くなかったか?」
「驚いたから…気づかなかった。墓石の陰からだよ」
「もう、理子も大人だから話すが」
「え?」
「姉はな、中学の時に同級生をいじめていたんだ」
幸子は学校の成績は悪くなかったが、とにかく気が強くていつの間にかいじめグループのリーダーになっていた。その標的は唱子という、勉強はできるが実技科目が苦手でおとなしい子だった。
「うざい。どんくさくて間抜けなんだよね」
家で弟にまで口にするほどだった。
ついには、唱子の制服のスカートにライターで火をつけた、というから尋常ではない。いじめグループは笑ってそれを見ていた、さすがにバケツの水をかけたというが。唱子はその格好で帰宅し、自宅のマンションの通路から投身した。三階からだったので命はとりとめたが、脚に後遺症が残った。幸子はそれさえもあざ笑った。
「死ぬこともできないダメなやつ」
理子は驚いた。
「確かに幸子おばさんは気が強いけど自分を曲げなくて、私のことはとてもかわいがってくれて」
美人でセンスの良い幸子のことを理子は大好きだ。そこまでひどいいじめをしていたことにどう対応してよいのかわからなかった。
理子は病院から家に戻っている幸子に会いに出掛けた。マミから購入した病気に効果があるというブレスレットを持ってだ。理子も最初に買った恋愛にきくブレスと災難よけのものと二重に身に付けつけていた。あの不気味な声はまだ聞こえているのである。
さらに痩せ細った幸子だが理子を見ると身体を起こして笑顔を見せた。
「理子ちゃん、ちょっとスピリチュアルにはまりすぎよ」
と、笑った。
理子は思いきって言った。
「あの、唱子さんって方に謝罪した方がいいんじゃないですか」
「あんな子は死んだ方が世の中のためよ」
理子はさすがに驚いた。
「誰もあの事をなかったことにしたのだから、それでいいのよ。あとは唱子がとっとと死ぬだけよ。呪いだかなんだかしらないけど、死んでしまえば空耳なんてなくなるわよ」
「…」
「世の中は優秀で美しい人が生きていくの。愚か者は邪魔なのよ」
理子は否定できないまま幸子の部屋を出た。
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