「スピーディAIは大文豪の夢を見た……んだけど」

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「スピーディAIは大文豪の夢を見た……んだけど」

c2c1eb65-c8c0-43b6-87ca-22219564bdab 「書く時間が、たりないんだ!」 ベストセラー作家、オーサーの悩みは、時間だ。 頭の中には、血沸き肉躍るプロットがぎっしり詰まっているのに、書く時間がたりない。 超高速タイピングを習っても秘書に口述筆記をさせても、あふれるアイディアに追いつかないのだ。 オーサーはAIに相談した。 「執筆時間を短縮する方法を考えろ」 最新型AIは4秒で答えを出した。 「プロットを言って下されば、私が書きましょう。 ご主人様がこれまでに書かれた文章を読み込んで、そっくりの文体を会得します。 AIには寝る時間も食事をする時間もいりません。24時間フル稼働。どんどん書けますよ」 「なるほどな!」 AIはオーサーがこれまでに書いた膨大な量の文章を読み、分析をした。 独得の文体や言いまわし、1行あたりの文字数や段落ごとの改行数。はては句読点の数まで計算し、完璧にマスターした。 翌日、オーサーはAIにプロットを伝えた。 AIは作業を始めた。 24時間後、長編小説が完成した。もちろんオーサーそっくりの文体だ。 オーサーは最終チェックをした。 「いかがです?」 AIが、ほんの少しだけ、いばったようなトーンで言った。 しかし、オーサーはプリントアウトされた紙の束を放り投げた。 「ダメだな」 「なぜですか? 文体のすべて、言い回しのすべてが反映されているはずです。 プロットも、おっしゃったとおりに書きました。何がいけなかったんでしょう?」 「いやあ、すまん。だいじなことを忘れていたよ」 オーサーはポリポリと頭をかいた。 「俺はいちどだって、自分の作ったプロットどおりに書いたことがないんだ。 プロットを破壊しつくしてからが、本当に面白いものが書ける時間なんだ」 そういうと散らばった紙を拾い集め、裏に猛烈なスピードで書きはじめた。 「——AI、コイツをスキャンして、文字校正をしておけ」 「アイアイサー、ご主人様」 さらさらとペンが走る音が続く。 AIは手書き原稿をスキャンしながらつぶやいた。 「……なるほど、こりゃ面白い。最初のプロットなんて、クズだ」 【了】(改行含まず約850字)
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