AIは無慈悲な地下鉄の女王

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『爆弾は2つ用意した。乗客の命が惜しければ、現金15億用意しろ』  爆発の直後に届いたメールには、そう書かれていた。 「……まさか本当に爆発するなんて」  私は車両倉庫の報告を受けながら青くなった。今回は乗客にはないが、これが駅構内や、乗客を乗せて運行中の爆発なら被害は甚大である。  課長は唸っていた。 「警察は?」 「連絡済みです。警察は犯人特定に全力を挙げるとしていますが、こちらが身代金を用意することを勧めてきています」  私は、先ほどの警察とのやり取りを要約した。 「犯人の要求を飲むのか!? 15億だぞ!?」 「しかし課長。北光電鉄の車両だって、そのぐらいの値段がしますよ」  我々の長々とした議論に、I.R.I.Sは痺れを切らしたようだった。もとより、AIに感情はない。しかし、火災が起こっているのにI.R.I.Sの行動に制限がかかっているため、ディスプレイにはおびただしい数のエラーメッセージが表示されている。 『車両倉庫で高温感知 火災の恐れあり 直ちに鉄道消防隊を要請します』 『車両倉庫との通信が切断されました』 『次の行動を入力してください』 「課長。女王陛下に託してみてはどうでしょう。高性能AIです。犯人の要求や、もしかしたら爆弾の位置を特定してくれるかもしれません」  私が言うと、課長は首を横に振った。 「彼女は鉄道運行に特化させたAIだ。確かにメモリ的に能力は秘めているだろうが……」 「では、女王陛下に対応させてください!」  女王陛下はすごいのだ。あそこまで高度な演算をできるのなら、爆弾犯の意図や、爆発物の位置、被害を最小限に食い止めることだってできるはずだ。 「できない。彼女の権限はプロテクトされている。爆弾の概念を教えるだけなのに、上層部のハンコが必要だったんだぞ。それ以上の、それこそ探偵みたいな権限を与えるなんて……」 「しかし課長! 今こそが緊急時です! 民の命がかかっているんです!」 「そこは乗客って言えよ」  課長は何か考え込んでいるようだった。何秒だっただろう。高性能AIにとっては、無限とも感じ取れる時間かもしれない。課長は言った。 「わかった。女王陛下に、付与しよう」 「何をですか」  課長はEnterキーを押した。 「捜査権限だ」 『I.R.I.Sプログラムを再起動します』
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