CPD

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 CPDは素早く画面に直人の写真を表示した。 「山田直人、29歳。データベースを参照します。……市立山間高校卒業後、仕事を7回転職。そのうち3回は会社都合、つまりはクビになっています。性格は短絡的、単細胞と揶揄されることが多く、情に厚いとも言われますがそれが裏目に出ることも――」 「あー、知ってる知ってる。大丈夫」  沙代子はCPDの話を遮って止めた。膨大なデータにアクセスできるCPDは、別に知りたくもない情報も親切に教えてくれる。 「そんなの、5年付き合ってる私が一番知ってるわよ」  沙代子は素早く眉を描き、控えめなベージュのアイシャドウを瞼にのせる。 「ならばなぜ、別れないのですか?」  CPDが眉間に皺を寄せながら首を傾げる。そういう仕草は人間そっくりなのに、人間の心はわからないのね。沙代子が皮肉を返すと、CPDは「私はAIですから」と感情のない声で答えた。  直人が3年前の沙代子の誕生日に買ってきた、そう高くないブランドの腕時計を身につけて沙代子は立ち上がる。襖の向こうを覗いて「行ってきます」と声をかけた。しかし直人の背中は規則正しく上下するだけで、返事は返ってこない。まあ、いつものことよね。呟いて沙代子は家を出た。
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