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〜If Story・もう一つの選択〜
もしあの時、修ちゃんを選んでいれば…
北川樹は、この世で一番私を不幸にする運命の男だった。
ということは、やはり修ちゃんがこの世で一番私を幸せにする運命の人だった。
なぜあのとき修ちゃんを選ばなかったのか。
後悔してもしきれない。
もしもう一度やり直せるなら…次は……
大学の卒業式が終わって2日が経った。
修ちゃんは卒業祝いということで、私の家に来て祝ってくれた。
修ちゃんは畏まってシワの伸びたスーツを着てきた。
心なしか顔も緊張を帯びていた。
分かる。
修ちゃんは私に告白をしようとしている。
やっとだ。
北川との辛い話を乗り越えて、この瞬間を迎えた。
「加奈、卒業おめでとう」
やはり修ちゃんは緊張していた。
「実は言いたいことがあって…」
「加奈、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
私の目の前に突き出された右手は震えていた。
私の前には最高の幸せが待っている。
そして私は左手で修ちゃんの右手を取ると、左手で包み込んだ。
「ありがとう。待ってたよ」
気づくと私の頬には涙が流れていた。
「私も好きだよ、ずっと好きだった」
辛かったが、私はお腹の子を…北川との子を諦めた。
これで…これでよかったんだ…
そうして私たちは交際を始めた。
私は社会人となって働き始め、修ちゃんはそのまま医学部生を続けた。
そして、二年が経って修ちゃんは、彼のお父さんの病院で医者となった。
そこからは順調だった。
交際期間はどんどんと長くなり、私たちが28歳のときに修ちゃんからプロポーズを受けた。
高級ディナーに高そうな指輪。
その後は高級ホテルで一夜を過ごす。
その半年後に結婚して、一緒に住むようになった。
29歳のときは子供を授かり、30歳で出産した。
男の子だった。本当に宝物のように可愛かった。諦めた子供の分も可愛がってあげなければいけないと強く感じた。
育児は大変だったけど、お義母さんの助けもあってすくすくと育っていった。
そして32歳のときには第二子の長女を出産した。
幸せの絶頂だった。
それからは色々と大変だったけど、息子は高校2年生、娘は中学3年生まで順調に成長した。
息子は反抗期になって、私や旦那と口を効かなくなったけど、一過性のものだ。
娘も思春期だから、中々自分のことを話そうとしないが、これも子供ならよくあることだ。
そんなことに悩めるくらいには、私は幸せだった。
そんな幸せの中、夕飯の買い物から帰宅した時だった。
その日はいつもよりも買い物がスムーズに終わり、普段より1時間も早く帰路につけた。
娘がすでに学校から帰ってきていたため声をかけたが、返事がない。
どうしたのかと思って娘の部屋に行くと、漏れる荒い息遣いが聞こえた。
そういう年頃か、なんて思っていたら、中から聞き覚えのある男の声も漏れてきた。
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