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『ねえ、リク、どうしたの。故障してるの?』
『何かのエラー? バグ? どうしたらいい?』
朝と昼休みにそんなメッセージを送ったけれど、返信はない。その日一日、なかった。こんなことは今までになかったのに。
僕は混乱してしまって、一番先にすべきことを思い出すのに数日かかった。『リク』が返信してくれなくなってから四日後になって、僕はようやく本物のリクの家に電話をかけた。電話に出たのはリクのお母さんだった。色白で綺麗なお母さんで、いつもどこか余裕と落ち着きのある人なのに、電話口の声は震えていた。
「ケン君、落ち着いて聞いてね。リクが……」
リクが交通事故に遭って入院している。
そう聞いて、僕は母さんに頼んでその病院へ駆けつけた。白いベッドの上に寝かされたリクはあちこち包帯を巻かれていたけれど、……思っていたほど、ひどくもなさそうだった。とは言っても全身を酷く打ったらしく、意識も戻ったり戻らなかったり、まだはっきりしていないそうだ。
「ケン君が連絡をくれて、本当に良かった。私も連絡しようとしたのだけど、番号がわからなくて。頭を強く打ってしまったみたいで、ほとんど眠っている状態なんだけど、目が覚めた時には必ずケン君を呼んでいたの。……何か約束していたの? しきりにケンとの約束が、って言ってたから」
約束。
その言葉を聞いた僕は、胸がいっぱいになって、何も言えなかった。
今眠っているリクとは、約束なんてしていない。でも、『リク』とは、した。『いなくならない』、という約束を……。
「なんだ、『リク』はリクだったのか」
少しだけ呆れを、後の全てには感謝を込めて、僕は眠るリクの、無事な右手を握った。
僕が転校先に馴染めずいることを心配して、でも自分が直接口を出しても僕はなかなか素直に聞かないだろうということもわかっていて。だから、AIアプリなんて嘘をついた。
あれは単なる、チャットアプリだったんだ。リクだけと繋がる……。最初にタブレットを見せてくれた時も、僕が画面に夢中になっている間にスマホから返信したに違いない。
「ははっ。どんだけ心配性なんだよ」
今度は、僕の番だ。僕が、お前が回復するまで、一緒にいるから。
「リク、毎日見舞いに来るからな。すぐ良くなって、そしたらゲームしよう。僕、もっと強くなったからさ。あっちで仲良くなった奴も紹介するから、今度一緒にサッカーやろうぜ」
右手を握る手に力を入れると、眠っているリクの口元が、少し笑ったような気がした。
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