デジタル・プロミス

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 カバンの中から取り出したスマホを眺めながら、つい三日前のリクとのやり取りを思い出した。あのあと帰宅してから僕はAIフレンドの設定を行なって、いくつか会話をした。もちろん、設定はリクの部屋でした時と同じにした。名前も。  退屈な昼休み、『リク』とおしゃべりするのもいいかもしれない。僕は画面に指を滑らせて、『リク』へメッセージを送った。 『リク、好きなお弁当の具材は何?』  程なくして、返事が表示される。 『ウィンナーかな。あと、唐揚げ』  思わずクスッと笑ってしまう。完全に本物のリクと同じじゃないか。もしかしたらリクは、そういうふうに設定したのかもしれない。 『リク、昼休みが退屈なんだ』 『昼休みってのは休憩時間だからな。別に退屈でも問題ない。でも、もしクラスにでも別のところにでも、話の合いそうな奴がいるなら、話しかけてみるにもいい時間帯だと思うよ』  手が止まった。そうか、退屈でも問題はないけど、確かに、話が合う奴がいるなら。……でも。 『でも、話の合いそうな奴なんていないよ。クラスには』 『どうしてそう思うの?』  それは……。  どうしてだろう。この学校、このクラスに通うようになって数ヶ月が経つけれど、その間、僕はこの学校の、このクラスの人たちのことを、どれだけ知ることができたんだろう。自分から話しかけに行ったことなんて、あっただろうか。転校生は珍しいから、転校初日はすぐ大勢に取り囲まれて大変だったことを覚えてる。でも、僕はそれにどう対応したんだっけ。確か慌てて、緊張してしまって……ほとんどまともに答えられなくて。  恥ずかしかったんだ、それが。  何と入力すればいいのかわからなくなって、僕はそのままチャイムが鳴るまで動けなかった。  放課後は、ひたすら宿題に取り組んだ。ゲームも少しやったけど、見晴のみんながログインしていなかったから、すぐにやめた。算数の計算問題を解きながら、昼休みのことを考えた。クラスに面白い奴なんていないって思っていたけれど、そうじゃなかったのかもしれない。僕は転校二日目から目立たないようにしようとして、ほとんど人とも話そうとしなかった。そういうことが、周りのみんなを遠ざけていたのかもしれない。  宿題を終えて夕飯やお風呂を済ませたら、もう十時を過ぎていた。スマホで『AIフレンド』を開こうとして開けなかったので、それに気がついた。 「ひとつだけ制限があって……起動時間なんだけど」  そう、リクは言っていた。朝の九時から夜の十時まで。それも、普通、小学校が授業をしている時間帯は除く。 「これは俺が、俺と同じ小学生を対象に作成したからね。授業中にAIとチャットしたらダメだろ」  まあ確かに、その通りだ。でも、今、話を聞いて欲しかったんだけどなあ。  少し残念な気持ちで、その日は布団に入った。
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