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物々しい空気の中で、アイシャが突然両手を床につき、深く深くルーに頭を下げる。
「顔を見られてしまいました」
フォリアを助けるために、エミーリアに顔を見られたと、アイシャは失態を犯したことへ謝罪を述べる。
「そうか……」
「如何なる罰も受ける所存です」
陰として動くことを命じられているのに、顔を見られるなどあってはならない失態だと、アイシャは首を跳ねても構わないと口にする。
だが、ルーは意外な言葉を口にした。
「好都合だ」
エミーリアに顔を見られたことは、都合がいいと、なぜか口角を緩める。ルーの意図は分からないが、アイシャは許しを得て再度頭を下げると、
「如何なさいますか?」
ルーに指示を仰ぐ。
「アルバーノ家を買い取れ」
「値はいかほどに?」
「言い値の倍だ。足りなければそれ以上でも構わない」
「承知いたしました」
命令が下され、アイシャが窓から姿を消す。フォリアの大切なものを奪われてなるものかと、ルーは屋敷およびその敷地全てを買い取ることを決める。
夜風が冷たく部屋に入り込み、ルーはそっと窓を閉めると床に戻る。
「ルー、正体を明かしたらどう?」
こうなったら、フォリアを奪うしかないとラーハルドが言うが、ルーは険しい表情をしたまま深く考え込むように、口を開く。
「明かしたところで、フォリアに気持ちがなければ、状況はさらに悪化する」
「それは……」
「この国にいられなくなれば、フォリアを守ってやることが出来なくなる」
今はラーハルドの友人として自由に行動出来ているが、正体を明かせば、皆が態度を変え、監視され、最悪国に戻される。それだけは避けたいと、ルーは時が来るまではどうしても明かせないのだと奥歯を噛み締める。
「ルーの命令なら、フォリアさんだって」
「俺は愛されたいんだ」
権力で縛り付けた愛など欲しくないと、ルーは苦笑する。フォリアはそんな場所で笑ってはくれない、幸せにはなれないと、分かっているから。
「どうするの?」
このままじゃ、フォリアは城に来て、エミーリアに今までと同じように虐げられる。しかもエミーリアが王妃になってしまえば、容易に手を出せなくなるだろうと、ラーハルドが心配する。
「何か方法があるはずだ、しばらく考えさせてくれ」
フォリアを救う方法……、ルーは、何かよい手法はないかと頭を悩ませた。
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