元令嬢は、変人王子に食べ物で釣られる？

第01話

お父さんが亡くなった。
それは突然舞い込んできた訃報。
母は、幼き頃に亡くなっていたため、私は突然孤独になった。

「フォリア、庭の雑草が伸びてきたわ」

派手な衣装に、高価なアクセサリーを身に纏った叔母のマリッサが、いつものように命令を下す。

「はい、ただいま」

ボロ雑巾みたいな服を着た私は、急いで外へと向かう。
数年前までは令嬢として暮らしてきた家だが、父が亡くなり、突如やってきてアルバーノ家を乗っ取った叔母。しかも叔母には娘がいて、現在二人は好き勝手に父のお金を使い放題なのだ。
だからといって、私に出来ることなんか何もなかった。
叔母は手際よく父の葬儀を執り行い、その勢いのまま様々な書類を作成し、本当にあっという間に全てを奪っていった。
家を出て行くのはたぶん簡単だけど、思い出がたくさん詰まったこの家を捨てることなんかできないし、行き先もない。家を追い出されたら、きっと死んでしまう。そう思ったら、どんな仕打ちを受けてもここにいるしかないと思った。
いつの日か、この家を取り戻したいと願ったから。

「フォリア様、どうぞ木陰でお休みください」
「“様”は要らないって言ったでしょうセシル」
「いいえ、私は何があってもお嬢様の侍女です」

セシル＝マルティ、彼女は数年間私の侍女として仕えてくれていた。雑用係に堕ちた今でも彼女だけは私をお嬢様扱いしてくれる。
他の使用人は、叔母がクビにしたから、残っているのはセシルだけ。
みんなとても優しい人たちばかりだったのに、今では叔母の都合のいい人が雇われていて、居心地は最悪だった。それでもセシルのおかげで私はなんとか過ごすことが出来ている。
庭の片隅にしゃがみこんで、私とセシルは途方もない草の大群に立ち向かう。

「ごめんなさい」

ふと、口を出た言葉にセシルがそっと背中を支えてくれる。

「どうしてお嬢様がお謝りになるのですか」
「セシルにこんなことさせてしまって……」

お父様がいらっしゃった頃は、庭の手入れは庭師が、食事だってちゃんとしたものを食べられていたし、洗濯やお掃除だって仕事として与えられていた人たちがいたのに、大勢の使用人はお金がかかるからといって、雑用係として私を住まわせてやっていると言われたのは、忘れもしない言葉。
あの時、セシルだって故郷に帰ることもできたはずなのに、屋敷に残ったから私と同様の酷い仕打ちを受けることになったのだ。

「お嬢様と一緒に居られるだけで幸せなのですから、そのようなお顔をしないでください」

優しく微笑んだセシルは、以前のように明るく笑ってほしいと言う。
それから、

「たくさん食べるお嬢様をまた見せてくださいね」

と、意地悪まで言われた。

「もうっ、そんなに大食いじゃないわよ」
「ふふ、お嬢様は本当に美味しそうに食べてましたから」
「……だって、食べるの好きなんだもん」

そう、令嬢としてはどうかと思うんだけど、色気より食い気だったのだ。とにかく食べるのが好きだった。もちろんそのために運動もちゃんとしてたし、太らないように気を付けていたんだから。
けど、今は残飯みたいな食べ残しを分けてもらうだけ。太るどころか痩せていく一方。
いつかまた、昔みたいに美味しいものをたくさん食べれたらいいなって、ただ夢に思う。