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「今日はやけに静かね」
屋根裏の物置みたいな部屋が私の現在の部屋。ギシギシ音を立てるベッドから身体を起こして、耳を澄ませてみたけど、いつもの騒がしい音がない。
いつもだったら、「フォリア、朝食の片づけが終わったら、床磨きよ」と、叔母のマリッサの耳障りな声がするはずなのに、まるで誰もいないみたいに静か。
少し恐怖を抱きながら下の階へ降りたけど、やっぱり静か。
何があったのかと、屋敷の中をウロウロしてたら、セシルが息を切らせて屋敷の中に飛び込んできた。
「お嬢様!」
呼んではいけないと言ってあるのに、大声でそう呼ばれて、叔母にでも聞かれたらと私は大慌てでセシルの元に走る。
「フォリアって呼んでって……」
「これを」
注意しようとしたら、一枚の紙を顔面に突き出された。さすがにこの至近距離じゃ全然見えなくて、手に取る。
その紙には、
『13月5日、エリオット=ルイジェルド王子(24歳)参加のもと、
オーフィリア城にて舞踏会を開催する。
参加資格は不問、ただし未婚者であることが条件』
そう書かれていた。
「舞踏会?」
「エリオット王子が参加ということは、おそらくお相手を探すのが目的なのです」
セシルは瞳を輝かせて、私に迫る。つまりどういうこと? と、首を傾げれば、力強く肩を掴まれる。
「お嬢様も参加するのです!」
そして、相手に選ばれればこんな生活から抜け出せ、幸せになれるのですと、セシルが力説。
ええ――っ! 私がエリオット王子と?!
無理無理、どう見たって今の私は庶民。そんな人、選ぶはずはないと、首を思いっきり左右に振れば、セシルがにっこりと笑う。
「王子でなくともよいのです」
「は、はい?」
「城には大勢の令息たちが来ているはずです。お嬢様がどなたかと結婚出来れば、必ずや幸せになれます」
た、確かに。この生活から抜け出すにはその方法があったと、思わずポンと手を叩きたくなった。
アルバーノ家より地位の高い人と結婚出来たら、きっとこの家を取り戻せる。その上、叔母たちにこの家を出て行ってもらうこともできるはず。
「名案だわセシル」
今までそんなこと考えたこともなかったと、私はセシルの手を取り、これはチャンスだと、この機を逃しちゃダメって、瞳を輝かせる。
叔母と義妹を追い出すチャンスだと、私は舞踏会に参加すると口にしてから、大問題にぶつかって今度は大きく肩を落とす。
いきなり項垂れた私に、セシルが顔を覗き込む。
「お嬢様……?」
「参加するのはいいけど、私、ドレスなんか持ってないわ」
まさかこんなボロボロの服で参加なんかできないし、きっと城にさえ入れてもらえないだろうと、悲しくなる。
「安心してください。ドレスは私がご用意いたします」
「セシル」
「お嬢様を一番可愛くして差し上げますから、大丈夫ですよ」
優しく笑ってくれたセシルは、全てお任せくださいと、泣きそうだった私を抱きしめてくれた。
つまり、この紙を見た叔母と義妹はさっそく衣装やアクセサリーを探しに出かけて行ったとのことだった。開催日まで二週間もなかったから。
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