第01話

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「今日はやけに静かね」 屋根裏の物置みたいな部屋が私の現在の部屋。ギシギシ音を立てるベッドから身体を起こして、耳を澄ませてみたけど、いつもの騒がしい音がない。 いつもだったら、「フォリア、朝食の片づけが終わったら、床磨きよ」と、叔母のマリッサの耳障りな声がするはずなのに、まるで誰もいないみたいに静か。 少し恐怖を抱きながら下の階へ降りたけど、やっぱり静か。 何があったのかと、屋敷の中をウロウロしてたら、セシルが息を切らせて屋敷の中に飛び込んできた。 「お嬢様!」 呼んではいけないと言ってあるのに、大声でそう呼ばれて、叔母にでも聞かれたらと私は大慌てでセシルの元に走る。 「フォリアって呼んでって……」 「これを」 注意しようとしたら、一枚の紙を顔面に突き出された。さすがにこの至近距離じゃ全然見えなくて、手に取る。 その紙には、 『13月5日、エリオット=ルイジェルド王子(24歳)参加のもと、 オーフィリア城にて舞踏会を開催する。 参加資格は不問、ただし未婚者であることが条件』 そう書かれていた。 「舞踏会?」 「エリオット王子が参加ということは、おそらくお相手を探すのが目的なのです」 セシルは瞳を輝かせて、私に迫る。つまりどういうこと? と、首を傾げれば、力強く肩を掴まれる。 「お嬢様も参加するのです!」 そして、相手に選ばれればこんな生活から抜け出せ、幸せになれるのですと、セシルが力説。 ええ――っ! 私がエリオット王子と?! 無理無理、どう見たって今の私は庶民。そんな人、選ぶはずはないと、首を思いっきり左右に振れば、セシルがにっこりと笑う。 「王子でなくともよいのです」 「は、はい?」 「城には大勢の令息たちが来ているはずです。お嬢様がどなたかと結婚出来れば、必ずや幸せになれます」 た、確かに。この生活から抜け出すにはその方法があったと、思わずポンと手を叩きたくなった。 アルバーノ家より地位の高い人と結婚出来たら、きっとこの家を取り戻せる。その上、叔母たちにこの家を出て行ってもらうこともできるはず。 「名案だわセシル」 今までそんなこと考えたこともなかったと、私はセシルの手を取り、これはチャンスだと、この機を逃しちゃダメって、瞳を輝かせる。 叔母と義妹を追い出すチャンスだと、私は舞踏会に参加すると口にしてから、大問題にぶつかって今度は大きく肩を落とす。 いきなり項垂れた私に、セシルが顔を覗き込む。 「お嬢様……?」 「参加するのはいいけど、私、ドレスなんか持ってないわ」 まさかこんなボロボロの服で参加なんかできないし、きっと城にさえ入れてもらえないだろうと、悲しくなる。 「安心してください。ドレスは私がご用意いたします」 「セシル」 「お嬢様を一番可愛くして差し上げますから、大丈夫ですよ」 優しく笑ってくれたセシルは、全てお任せくださいと、泣きそうだった私を抱きしめてくれた。 つまり、この紙を見た叔母と義妹はさっそく衣装やアクセサリーを探しに出かけて行ったとのことだった。開催日まで二週間もなかったから。
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