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プロローグ
「ちぃ、あんまり泣くなよ。目が溶けちゃうぞ」
ペットの金魚が死んでしまって泣き崩れる千春を、六歳年上の幼馴染の香月はそう言って慰めてくれた。
『ハチロー』と名付けられた金魚は、先週近所で行われた花火大会の金魚すくいの屋台で獲ってきたものだ。
元々の生育状態が悪かったのだろうか。今朝方餌をやろうとしたところ、金魚鉢の水面に腹を出して浮いているのを発見した。
身勝手な人間の一時の楽しみのために命を燃やしく尽くした『ハチロー』のことを思うと胸が痛かった。
この頃の千春は生きとし生ける物の命の灯火が失われることにある種の恐怖を感じていた。
死はいつも身近に存在している。
一度気がついてしまえば、もう見て見ぬ振りはできない。千春は道路でひしゃげたカエル、干からびたヘビやミミズを見つけるたびに涙し、香月に泣きつくことが続いていた。
香月はそんな千春に呆れることなく、ハチローを庭に埋めてくれるのを手伝ってくれた。
紺色のブレザーに土がつくのを厭わず、スコップで土を掘り返していき死骸を埋めると、最後には二人で手を合わせる。
千春は墓前に手を合わせながら、こっそり香月の横顔を盗み見ていた。
小学生四年生の千春にとって、制服に身を包んだ香月はずっと大人に見えた。
……こんなことで泣きじゃくってしまう自分の幼さが恥ずかしいほどに。
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