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「ただいま……」
夕方、千春は一週間ぶりに香月の家に帰宅した。なんだか長い夢を見ていたような気分だった。
香月が帰宅したのは千春の帰宅から三時間後のことだった。玄関から物音がすると、千春は廊下を走り香月を出迎えに走った。
「おかえり、香月くん」
「ただいま、ちぃ」
ただいまと同時に腕の中に閉じ込められる。たかが一週間。されど一週間。離れていた時間を埋めるように二人は互いの温もりを確かめ合った。
帰宅の感動が落ち着いてくると、二人はリビングのソファに揃って腰掛けた。
「患者さんが亡くなった時……悲しかったよね?」
「そうだな。命を救えなかったことは何度もあるけど、あんな風に亡くしたことはなかった。自分の無力さに腹が立ったよ」
「そっか……」
大学病院を辞めるきっかけになった女の子のことを思い、千春は香月の手を握る。どれほど悔しかっただろう。
患者のことを大事に思う香月の心に少しでも寄り添ってやりたい。甘えさせてあげたかった。
「ありがと、ちぃ」
香月は千春の心遣いを素直に受け取り、手を握り返してくれた。
聞きたいことは他にも山ほどある。
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