プロローグ

2/2
1095人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
「ちぃ」    あれから、十六年。    成長期を終えた香月の背は大きく伸び、少年の面影はすっかり消え去った。精悍とした凛々しい顔立ちと、声変わりを経て低くなった声に、流れた月日の長さを感じる。  しかし、千春の名前を呼ぶ声に含まれる優しさは何ひとつ変わることがなかった。  昔と同じく『ちぃ』と可愛らしいあだ名で呼ばれるのは、アラサー目前の今となってはこそばゆい。  千春はあの日、切に願った通り、道端に落ちている死骸程度では泣かなくなった。心が強くなったのか、感覚が鈍くなったのかは定かではない。  変わらないものもあれば、変わってしまったものもある。  それでも、千春にとって香月はいつまでも『特別』だった――……。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!