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私は今日も、同じ夢を見ている。
5センチほど開かれた扉から差し込む、一筋の光のみがこの部屋を照らしている。
その小さな隙間に顔を近づけると、鮮やかな世界が視界に映り込む。
一面に咲き誇る花々が柔らかな風に吹かれながら、静かに揺れる。
わずかに鼻を擽る甘い香りは、果物の木がどこか近くに植えられているのかもしれない。
常にあたたかな太陽が降り注ぎ、心地よい風が吹き続ける。
まるで楽園を彷彿させる、おだやかで、美しい世界。
丘のような場所の中央には、白い椅子が一つ置かれている。
そこに腰かけた少年は、こちらの存在に気が付いたようだ。
「おはよう」
いつも通りの笑みを浮かべ、手元の本を膝に寝かす。
彼と会うのはこれで3度目だ。
「ねぇ、お願い。ここから出して」
このセリフも3度目になる。
腕を伸ばすことすらできない細い隙間に、これでもかと身体を寄せて訴えた。
「ここ、暗くて狭くて。とても怖いの」
音も温度もない空間。
備え付けの明かりもなく、部屋の全貌は見えない。
それが更に恐怖を膨らませていた。
「私そっちに行きたいわ。綺麗で、あたたかい世界に」
私の言葉を聞くと、彼は困ったように言った。
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