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「そう。君が怯えている、その暗闇の奥」
「……見た事なんてないわ。そもそも、暗くて何も見えないの。何度も言ってるでしょ」
まくしたてるように言えば、今度は彼が黙った。
しばらくの沈黙に少し怖くなって、再び隙間を覗く。
すると、いままでは椅子に座り続けていた少年が、扉越しまで近づいてきていた。
カチャリ、と金具の擦れるような音が鳴る。
慌てて身体を起こすと、隙間いっぱいに彼の顔が見えた。
「鍵は開けた。あとはこの南京錠を外すだけ」
初めて間近でみた彼の顔は、思ったより幼く愛らしい。
日に透けた髪が風に靡くと、それは美しい銀色に映った。
人離れしたその姿は、場所も相まって、天使のようだと思った。
「ありがとう。ようやく帰れるのね」
安堵から思わず零れた笑みは、すぐ引っ込んだ。
なぜなら彼の顔があまりに真剣だったから。
小声で話しかけるのは誰への配慮なのか、私には分からない。
「……君が選べるのは、2つ。南京錠を開け、この危険な世界に足を踏み入れるか。もしくは」
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