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隙間から一本の指がこちらに向けて伸びる。
身体をよけ、指し示す先に視線を向けた。
「その暗闇の向こうへと行けば、元の世界へ帰れる」
真っ暗で何も見えない先は、恐ろしい怪物がいてもおかしくないと思えるくらい、まがまがしく映った。
背筋に悪寒が走り、自然と湧き出た唾をのみ込む。
「いやよ。こっちはなんだか嫌な気がするの。……だから、早く開けて!」
途端に背中から何かが押し寄せてくる感覚がした。
ざわざわと誰かのうめき声のようなものが耳を支配しだし、恐怖を掻き立てる。
「ねぇ、早く!!怖いわ!!」
縋るように彼に呼びかける。
取り乱す私に彼は、優しく語り掛けてくれた。
「僕の瞳だけをみて。他には何も映さないで」
煌めく瞳が隙間いっぱいに覗く。
彼の存在だけが今の私を繋いでくれている気がした。
じっとその瞳を覗き込む。
すると、段々とその瞳に一人の少女が浮き上がって見えた。
それは馴染みのある姿。
「これって……」
全身に傷を負った、見るに堪えない……私自身の姿だった。
忘れていた記憶のカケラが徐々に戻る。
そうだ、私は。
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