エリンジウム

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「あの、予約していた楠本です。先にチェックインしてると思うんですけど」 「はい、見えてますよ。こちらがルームキーでございます。明日のお食事のご案内はお連れ様に済ませております。ごゆっくりお休みくださいませ」 「ありがとうございます」 5つ星ホテルというのは何度泊ってもなかなか慣れない。けど非日常的な気分を味わえるのでけっこう気に入っている。正直、これを楽しみに仕事をしているようなものだ。エコバッグを持つ手の重みとは正反対に気持ちが浮足立つ。エレベーターの中で一人、両足の踵を上下させて鼻歌を歌ってしまった。 ホテルの廊下を歩きながら部屋を探す。 「708・・・あった」 カードキーを翳すとガチャン、という金属音がする。電気の点いた部屋に入り、部屋の豪華さに思わず顔がニヤけた。 もう24歳だというのに、荷物を部屋の椅子に置くなり、ベッドに飛び込んだ。ぼふっと鈍い音と共に自分の身体が沈む。今週も頑張った俺、お疲れ。真っ白でふかふかなベッドに文字通り寝転がりながら深く息を吐くと、部屋の奥でシャワーの音がした。なんや、一緒に入ろ思ってたのに。ま、どのみち一緒に入ることになるやろ。 あ、せや、ビールとデザート冷やしとこ。つまみもテーブルに並べとこ。こういうプチパーティーみたいな状態に胸が躍るのは大学時代、いや中学時代から変わっていない。アメニティ?のいかにも高そうなウェットティッシュも近くに配置させた。 「お疲れ」 「おう、お疲れ」 バスローブを着た空陽が髪の毛を拭きながら出てきた。 「何そんな買うてきたん?パーティーやん」 「ビールも冷やしてあんで」 ニヤリと笑う俺をフッと笑う空陽。 「なにがおかしいねん」 「いや、めちゃめちゃ楽しんでんな、思て」 「当たり前やん。このために今日、残業頑張ってんねんから」 「んで?」 「ん?」 空陽がベッドに座った俺の横に腰をおろし、悪いことを考えているような顔でニヤっとした。 「帰って見たいもんって、何?」 「お前こそ、帰ってやりたいことって何?」 「・・・えろ」 「お前やろ」 言うが早いか、空陽の両肩を掴んで押し倒し、そのまま唇にキスをした。 シャンプーなのかボディソープなのか、高そうなアメニティの良い香りが鼻を擽る。空陽の濡れた髪を右手指に絡めて、左手で空陽の頬を包む。日頃の激務のご褒美やな、と思った。舌を入れようとしたときに、空陽の声がした。 「・・・っん、んんっ・・・!!」 パンパン、と肩を叩かれる。不満を抱え、唇を離すと少し怒った顔で空陽が言った。 「その前に、雄飛もシャワー。マナーやって言うとるやろ」 「・・・んなカッコで出てくるお前が悪い」 待て、をくらった犬のような気分で俺は風呂場に向かった。 空陽と同じ香りのシャンプーとボディーソープで全身を洗い、猛スピードで全身と髪の毛を適当にワシワシ拭いた。どうせこの後汗かくし。一つ残されていたバスローブを羽織ってシャワーを出ると、灯りが消えていて、ベッドの上で空陽が横になっていた。 イラっとする。俺が鼻歌歌うほど楽しみにしてたのに、お前は何先に寝とんねん。その怒りをぶつけるように、バスローブの紐を思いっきりほどいてやった。 「・・・あ」 その衝撃で目を覚ましたのは分かったが、そんなもん関係なしと言わんばかりに覆いかぶさって空陽の唇にキスをした。 「ごめ、寝てた・・・」 「ん。やから、お仕置きな」 「それ、なんかの観過ぎやって」 「お前、俺がどんだけ楽しみにしてたか知らんや、ろっ・・・」 言いながら空陽の脚を開かせる。 「やって、部長が来週の会議急に・・・」 「言い訳禁止」 「言い訳やなくて、事実・・・ぁっ」 空陽の弱いところをグリっと指で押した。撓る眉の上の額にキスをして、枕元に置いておいたローションを手にした。 「それ、新しいやつ?」 「そ。ティッシュで拭き取れるんやて」 「えー、でも終わったあと風呂入りたいし・・・」 「今から終わったあとの話すんな」
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