エリンジウム

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タタタタン、とPCのキーを打ち終えた瞬間。 「終わった・・・」 と、深い息と共に呟き、オフィスチェアにもたれかかった。背もたれがグイ、と後ろにしなる。 「楠本、終わったー?帰れそう?」 数メートル離れた先のデスクから、先輩の星野さんの声がする。 「やっと終わりましたよ、帰ります帰ります」 デスク横に丸めていたネクタイを首にかけ、帰宅の準備をする。 「星野さん、まだ帰らないんすか?」 「これだけ仕上げていくよ。楠本は帰りな。俺は単純にせっかくの連休に会社から電話かかってきたら嫁にどやされるから、そうならないための最終確認」 「大変っすね。じゃ、お先失礼します」 「お疲れー」 上着をサッと羽織ってフロアを出る。もうだいぶ定時は過ぎたが、他の上司や先輩、同僚にばったり会う可能性もあるのでネクタイを締めなおそうとした矢先に、まさにばったり出会った。 「お疲れ」 「・・・お疲れ」 別の課の同期、倉沢と柿沼がエレベーターの前に立っていた。 まあ、俺は大学一年留年しているので2人より年は1つ上だ。(留学していたのであって、けして遊んでいたわけではない) 「楠本、お前また残業?」 「また、ってなんや。しゃーないやろ、プレゼンの資料、急に修正入ってんから」 「ほんと仕事人間だな。会議、来週だろ?」 「俺は明日からの連休を存分に満喫するために、最善を尽くしたまでや。お前らこそ、こんな時間まで珍しいやん」 「似たようなもんだよ。企画書、連休明けまでに仕上げろっていきなり」 「お互い大変やな」 入社2年目。なんとか仕事にも慣れてきた。幸い、残業も苦にならないほど仕事はやりがいを感じている。仕事人間、と柿沼に言われたけど俺は別にそうは思っていない。仕事も私生活もバランスが大事やと本気で思っている。 「どう?今から3人で呑み行く?」 ニヤリと笑った柿沼が手で御猪口で酒を呑む仕草をした。行きたい、けど・・・ 「あー、ごめん。俺、帰って見たいもんあんねん。また誘って」 「そっか、分かった。倉沢は?」 ずっと黙っていた倉沢が口を開いた。 「あ、俺も帰ってやりたいことあって」 「なんだよ、みんな充実してんな。じゃあ俺は帰ったら速攻風呂入って寝るかな。せっかくの連休なのになんも予定入れてないよ」 「他の同期のやつら誘って、今度計画立てよ。BBQとかええな」 「そういうのって、結局企画倒れになるんだよねえ・・・」 「まあな」 やっときたエレベーターに3人で乗りこむ。俺らの他には誰も乗っていなかった。チン、と音を立てて1階に着く。入館パスをタッチさせて、会社を出た。 「じゃ、俺こっちだから」 片手を上げて柿沼が反対方向のバス停へ向かって行った。 「おう、お疲れ」 「気ぃつけてな」 倉沢と一緒に柿沼に挨拶し、そのまま駅に向かって歩き出した。 「俺、コンビニ寄ってくわ」 「じゃ、先行くで」 「おう」 倉沢は俺と同じ関西出身で、2人になるとどうしても関西弁が強まってしまう。けど、なんか素に戻れた気がして楽だった。 倉沢の後ろ姿を見送りながら通りのコンビニに入った。冷房がありがたい季節になった。汗が冷えていく感じが気持ちいいけど、早く強めのシャワー浴びたい。缶ビール4本と乾きもの、あと和スイーツとプリン。アイスも食べたいけどきっと途中で溶けるな。 もらいもんのエコバッグに詰めて、コンビニを出る。今度こそネクタイを完全にバッグに押し込んだ。 電車で3駅のところで降りて5分ほど歩いて、角を曲がったところ。その外観に、数秒ほへー、となる。 フロントの女性スタッフに声をかける。
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