その契約は強制で

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 余裕たっぷりの朝陽(あさひ)さんの発言に、こっちだって負けてなるものかという気持ちになってくる。学生時代の部活とはいえ、真剣に演技をしてきたので私にもそれなりの自信はあった。  それに少しだけ狡いのかもしれないけれど、こうして朝陽さんと向かい合っている時間だけは元カレに裏切られた辛さを誤魔化せる気がして。  ……だからかもしれない、偽りでも「愛され花嫁」という立場が悪くないと思ってしまったのは。 「そう簡単にいくでしょうかね、私だってペナルティーなんて受けるつもりはないので。そう言う朝陽さんこそ一か月後に計画通りの結婚式を上げれなくても、私に文句は言わないでくださいよ?」  暗に「愛され花嫁」になれるかどうかは貴方次第なのだと伝えると、朝陽さんはますます楽しそうに口角を上げて見せる。私と同じように血の気が多いタイプなのか、勝負が好きなのはお互い様らしい。  もちろん借りがあるのは私の方だから、それ以外の事については全力でやるつもりではいる。彼に協力してもらうのは、私が誰よりも愛されているという実感を得ることだけ。  そのつもりだったのだけれども…… 「そこまでいうのなら、鈴凪(すずな)としてはどこまでOKなんだ?」 「どこまでって、何がです?」  朝陽さんの質問の意図が分からずそのまま聞き返すと、何故か彼は何ともいえない微妙な表情をしてみせた。馬鹿にされているのか、可哀想なものを見るような目つきというのか。とにかく私にとって気分が良い物ではなかったので、文句を言おうとしたのだけど。 「鈴凪は俺に愛されていることを実感したいんだろう? その幸せオーラとやらのために。だからどんな風に愛していいのかと聞いている。抱きしめたりキスは可能なのか、その肌にどこまで触れていいのかという事だ」 「……は、肌⁉」
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