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「……すみません、シャツ汚しちゃって」
無言で慰めてくれたいた神楽 朝陽、いつの間にか私は彼のシャツを掴んで泣きじゃくってしまっていたらしく。申し訳なさから、彼と顔を合わせる勇気もなくそう謝ったのだが……
「別に構わない、貴女に請求する迷惑料の中にちゃんと付け加えておくから」
「め、迷惑料って⁉ 何のことですか!」
まさかそんなことを言われるなんて思っていなかった私は、驚きで今度は神楽 朝陽のスーツのジャケットを掴む。
だって、そんな……
すると神楽 朝陽はかけていた眼鏡のテンプルを、指でつまんで外す。眼鏡姿も似合っていたが、外すと彼はまた違った魅力があって。
野生の獣を思わせるような切れ長の瞳が細められて、一瞬だけドキリとする。まるで、自分が獲物として狙われているのかと感じてしまったからだ。
「なんの事か、だと? 面白いな、今日アンタがここのロビーで俺に何をしたのかもう忘れたのか?」
「……それは」
何となく彼の口調が変化したような気がしたが、それについて考えている余裕はなく。
神楽 朝陽が、私が誤解で彼を殴った事について話しているのだということは分かる。実際、この人は流が私を騙すために、勝手にその存在を使われていただけなのだろうし。
流からすれば御曹司相手に私が会いに行くなんて思いもしなかったに違いない。だからああもサッサと逃げるように会社の外に出たのだろうから。
でも、いくら流が原因だったとしても神楽 朝陽を殴ったのは私。その事実は変わらない。
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