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「でも、私にはお金なんて……」
正社員で働いているとはいえ、一人で暮らしのためそう余裕のある生活はしていない。その上、結婚資金として毎月給料日に流に五万渡していたのだから貯金も無くて。
そんな状態で、迷惑料なんて請求されてもどうすればいいのか分からない。
「アンタの親は? もしくは兄弟」
「……家族まで、巻き込むんですか?」
神楽 朝陽の言う通り、もし親に泣きつけば少しくらい助けてくれるかもしれない。でもそうすれば、流に婚約破棄されたこともお金を騙し取られたことも全部話さなくてはいけなくなる。
それこそ実家に戻らされて両親の選んだ相手とお見合い結婚をさせられるかもしれなくて。
「……もし、嫌だと言ったら?」
ソファーに座っていた神楽 朝陽がゆっくりと立ち上がりこちらの方へと歩いてくる。余裕のある笑みが逸らされない鋭い視線が、まるで肉食獣のようだと反射的に身構えてしまった。だけど……
「じゃあどうやって支払う気だ? それだけの価値があるものを、アンタが今すぐに提示出来るのならいいが?」
「今すぐって……きゃっ!」
いつの間にか壁際まで追い詰められていたことに気付く。逃げなくては、本能的にそう思ったがすぐに神楽 朝陽が両腕を伸ばして壁につけて私の逃げ道を塞いでしまう。
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