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「そう簡単に逃がしてもらえると思ってるのか、俺相手に」
「あの、逃げるつもりだったわけじゃ……」
ないとも言い切れない。神楽 朝陽の視線が怖ろしくて、どこかに隠れたいと思ったのは事実だから。でもそんな私の気持ちにはお構いなしで、彼は思い切り距離を詰めてくる。
……近すぎる、凄く怖いけれど神楽 朝陽は間違いなく女性にモテる顔をしていて。心臓がバクバクと音を立てているのは恐怖だけではない気がしたが、あえて気付かないフリをする。
そんな私を揶揄うかのように、彼は親指と人差し指だけで私の顎を持ち上げ強引に視線を合わせた。
「勤め先、年齢、最終学歴。あとはそうだな、趣味と特技ってところか」
「……は?」
言われた言葉の意味が分からず、ポカンと神楽 朝陽の顔を見つめた。ああ、やっぱりかなりの美形だ。これで御曹司という立場なのだから、きっと女性も選り取り見取りに違いない。そんなことをぼんやり考えていたためか……
「いっ! いひゃい、いひゃいでふ!」
「この状況で俺の顔に見とれてるなんて、随分余裕があるじゃないか。俺は同じことを言わされるのが死ぬほど嫌いなんだが、どうして欲しい?」
両頬を思い切り指で引っ張られて、その痛みから逃れようと必死に顔を背けようとする。さっきから自分本位な要求ばかりを押し付けてくる神楽 朝陽に流石に眩暈がしそうになってくる。
……だけど、どう考えても悪いのが自分だということに変わりなくて。このまま彼の滅茶苦茶な要求も受け入れる覚悟を決めようとしてたのだけど。
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