提案は思い付きで

6/12
前へ
/62ページ
次へ
「……で、アンタの返事は?」  そう言ってにやりと笑う神楽(かぐら) 朝陽(あさひ)は、絶対に性格が悪いと思う。私の答えを待っているように見せかけて、こっちが焦っているのを楽しんでいるのだから。  どんな返事をしても、きっとこの男に都合よく言い換えられるに違いない。それならば…… 「私の勤め先は堂崎(どうざき)コーポレーションで、営業補佐をしています。歳は先月二十五になったばかりで、最終学歴はW大卒業です。他は、確か趣味と特技でしたよね?」 「……へえ、ちゃんと聞いてたのかよ」  別に神楽 朝陽の質問を聞いていなかったわけじゃない。そんなことを聞かれる理由が分からなかっただけで。  だから私は彼の問いに答える形で、返事をして見せたのだった。 「堂崎コーポレーションか、そんな一流企業に勤めてるとは意外だな。容姿もソコソコで学歴も悪くない、残念なのは猪突猛進なその性格ってところか」 「……何一つ褒められてる気がしないんですけど?」  私の両親がわりと進学や就職先に口を出す人たちだったため、それなりの大学を出て一流と言われる堂崎コーポレーションに就職した。  最初から次期社長の椅子が用意されている神楽 朝陽と一緒にしないで欲しい。そう思って、何となく彼から視線を外してそっぽ向いていると……
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1330人が本棚に入れています
本棚に追加