その契約は強制で

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「俺は鈴凪(すずな)に強制した覚えはない、選ぶのはアンタだといったはずだ」 「じゃあ、どういうつもりなのかきちんと説明してもらっていいですか? 選ぼうにも契約内容がはっきりしてない状態では、私には判断出来ないので!」   強制してないなんてよく言えるなと思いながら、それでも冷静に話を進める私を誰か褒めて欲しい。神楽(かぐら) 朝陽(あさひ)にいくら借りがあったとしても、こうも自分本位で話をされると腹も立ってくる。そのうち我慢の限界がきて爆発してしまわないかと自分自身が不安になってしまうくらいには。 「……一つ聞くが、鈴凪は結婚式の花嫁の姿を見てどんなことを思う? ただの花嫁じゃない、新郎に愛されてとびきり幸せそうな花嫁だ」 「とびきり幸せそうな花嫁を見て、ですか?」  思いもよらない質問に今度は私の方が返答に困ってしまった。結婚式と言えば幸せの象徴のようなものなんじゃないのだろうか? 私は独身でその経験はないけれど、結婚に対しての憧れや夢は人並みにはあるつもりだから。だから、自分が思う花嫁への感想を素直に告げた。 「そうですね。嬉しいなとか、絶対に幸せになって欲しいでしょうか。後は……そうですね、ちょっと羨ましいかな?」 「へえ、鈴凪みたいなタイプでもそう思うんだな。じゃあきっと効果は抜群だろう」  効果? 彼が言っていることが何を指しているのかイマイチよく分からない。だけどそれを私が知る権利はないと思ったから、考え込む様子の神楽 朝陽を問い詰めるような事はしなかった。  こうしていると近いのか遠いのかよく分からない私たちの距離と関係、それがこの先自分の予想しない形に変わっていくなんてこの時は思いもしなかったのだけど。
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